PTSDを発症しやすい人はどんな人?

PTSDを発症しやすい人はどんな人?

みなさんこんにちは!これまで2回にわたり、基本のPTSD、複雑性PTSD、解離型PTSDのそれぞれの症状や診断基準について見てきました。

その中で、PTSDの発症には、トラウマ的な出来事そのものだけでなく、その人自身の性質や経験、社会的背景なども大きく関わっているということも軽くお伝えしたと思います。

今回はこの部分をもう少し深掘りし、「どんな人がPTSDを発症しやすいのか?」を詳しく見ていきたいと思います。

そもそもPTSDとは?という方はこちらの記事をご覧ください!⬇️

複雑性PTSDや解離型PTSDについて詳しく知りたい方はこちらをどうぞ!⬇️

発症しやすい条件

とある世界的な調査によると、一人の人間が一生の中でトラウマ的な出来事に遭遇する確率は70.4%であるのに対し、PTSDの生涯有病率は4%だと言われています1。つまり、トラウマになるほどショッキングな出来事を経験したとしても、すべての人がPTSDを発症するわけではないんですね。

それでは、一体どんなときにPTSDを発症しやすくなるのでしょうか?

ここには、大きく分けて「トラウマを経験した個人の特徴(どんな人がトラウマを受けたか?)」と「その出来事の特徴(どんな出来事だったか?何回経験したか?など)」の2つの要素がかかわっています2。もちろんこの2つは互いに影響しあうことが多いため、はっきり区別できない部分もありますが、今回は主に「トラウマを経験した個人の特徴」にフォーカスしてみましょう。

トラウマを経験した人の特徴は、大きく以下の3つに分けることができます。

  • 個人的な性質や属性…性別、年齢、遺伝的素因など
  • 経験…逆境的小児期体験(ACEs)、職業など
  • 環境…心理社会的リソースの有無、経済的状況など

個人的な性質や属性

性別・年齢

トラウマ経験者が女性の場合、PTSDを発症しやすくなります。PTSDの発症リスクは男性が3.4%であるのに対し女性は8.5%と、2倍以上に跳ね上がります34
これにはさまざまな要因がかかわっていると考えられますが、社会的性役割、男女の筋力の不均衡、そして女性の妊孕性などを踏まえると、女性は男性に比べ、PTSDを誘発しやすいタイプのトラウマ(親密なパートナーからの身体的・性的虐待やレイプなど)を受けやすいのではないかという指摘がされています5

年齢面では、子ども青年などの若年層、そして高齢者の発症リスクが高まります6。こちらも性別と同じく、若年層や高齢者層は、力の不均衡が起きたときに弱者の立場に立ちやすいため、とりわけPTSDを起こしやすいようなトラウマを経験しがちなことが影響しているのかもしれませんね。

遺伝的素因

PTSDの診断基準には、トラウマとなるような出来事に晒された経験が必須要件として組み込まれていますが、そうした環境的な要因だけでなく、遺伝的な要因も実は無視できないことがわかっています。

たとえば、双子を対象としたとある研究によると、PTSDの発症に対して遺伝的素因が与える影響は46%(その中でも女性では71%)でした7。 つまり、単純に考えると、PTSDの発症には、遺伝的要因が半分から4分の3程度影響を与えている可能性があるということです。
さらに、親のPTSD症状の重症度が子どもの不安や抑うつ、問題行動などに影響を与える可能性があったり8、家族に精神疾患を持つ人がいる場合PTSDの発症リスクが高まったり9することも指摘されています。

PTSDに対して脆弱な(=PTSDを発症するリスクの高い)遺伝的要因は、周生期の生活ストレス幼少期のトラウマ、さらに遺伝子発現を調節するその他の環境的な要因などに影響を受けます10。 これらについては、この後の「幼少期の逆境体験」の項で詳しく見てみましょう。

経験

逆境的小児期体験(ACEs)

幼少期にトラウマを多く経験すると、PTSDの発症リスクが高まります。

この幼少期のトラウマについて理解するうえで重要なのが、ACEs (Adverse Childhood Experiences;逆境的小児期体験)という概念です。ACEsは18歳までに起きたトラウマ的な出来事や状況のことで、具体的には以下の10項目を指します11

  • 身体的虐待
  • 性的虐待
  • 心理的虐待
  • 身体的ネグレクト
  • 心理的ネグレクト
  • 家庭内虐待の目撃
  • 薬物やアルコールを乱用する近親者がいる
  • 精神衛生上の問題を抱える近親者がいる
  • 近親者が刑務所に服役している
  • 関係の破綻を理由とする親子分離離婚

当てはまる項目の数が4つ以上の場合には、その後の人生において精神的・身体的健康が侵されるリスクが高まることがわかっていて12、その中には当然PTSDの発症も含まれています13。特に身体的虐待性的虐待ネグレクト近親者の精神疾患の4つの要素は、それぞれPTSDの発症可能性を80%も高めると言われています14

それではどうして、幼少期の逆境体験がPTSDの発症可能性を高めてしまうのでしょうか?

まずは、先ほど軽く遺伝的要素の項目で触れましたが、この時期の脳の発達エピジェネティクス(DNA配列に依存しない遺伝、つまりここではストレスによる遺伝子の発現変化15)の問題が挙げられます。
たとえば、幼少期には情動調節やストレス対処などに関わる大脳辺縁系やHPA軸が発達していきますが、この時期に虐待を受けるとそれらの健全な発達が阻害され、不健全な愛着スタイルが形成されやすくなります16し、PTSDの発症に対して脆弱な遺伝的要素の発現を促しやすくなります17

すると次に、そうして形成された不安定な愛着スタイル情動調節の困難さ、そこから引き起こされる対人関係での困難さがさらなる困難を呼ぶようになります。複雑性PTSDやその他の難治性の精神疾患へと発展したり、大人になってから不安定な対人関係に巻き込まれるリスクが高まったり18、さらには加害的トラウマ(強盗や性的暴行、その他の生命を脅かす出来事)に遭遇する確率まで高まったり19して、結果的にPTSDの発症リスクを高めてしまうのです2021

職業

看護師救急隊員医師などの医療従事者はPTSDのリスクが高まります。その中でも特に、勤務年数が長いことや高齢であること、暴力へ晒された経験があること、精神疾患の既往歴があること、高等教育を受けていないことなどの条件は、PTSD発症の可能性をさらに高めると言われています22

救急隊員のPTSD発症リスクは一般的な人々にくらべると2倍で、特に職業柄、繰り返しトラウマに遭遇する可能性が高いことが、大きく影響しています23

また、コロナ(COVID-19)禍においては、医療従事者のPTSD推定有病率は17~29%だった24とも言われており、このパンデミックを通じて繰り返しトラウマに晒されたこと、高い感染リスクを負ったこと、スタッフや個人防護具が不足していたこと、効果的な組織的対応のために道徳的なジレンマを抱えざるを得なかったことなどのストレス因子が組み合わさった25ことで、このような深刻な事態が引き起こされたと指摘されています。

環境

心理社会的リソースの不足

PTSDの発症リスクを抑えるためには、トラウマに遭遇したあとの心理社会的支援が重要になってきます。そのため、継続的なストレス要因を抱えていたり、社会的支援に繋がれなかったりする人はPTSDの発症リスクが高まります26

経済的困窮

そして心理社会的リソースをどれだけ持てるかには経済的な要因も大きくかかわっており、実際に、経済的地位が低かったり、教育年数が短かったりすることは、PTSDの発症リスクを高めると指摘されています27

おわりに

今回は、トラウマを経験したあとPTSDを発症しやすい人の特徴について見てきました。
今回は便宜上、個人の特徴を3つに分類し、それぞれの要素を列挙して詳しく見てきましたが、そのひとつひとつが完全に独立しているわけではなく、むしろドミノ倒し的に連鎖していることが見て取れたのではないかと思います。
次回はPTSDを引き起こしやすいトラウマの種類について詳しく見ていきたいと思います。


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本記事の参考文献・サイト

  1. Kessler, R. C., et al. (2017), pp.5-6  ↩︎
  2. Burback, L., et al. (2024), p.562 ↩︎
  3. Duncan, L.E., et al. (2018), p.114 ↩︎
  4. Kessler, R. C., et al. (2017), p.8 ↩︎
  5. Duncan, L.E., et al. (2018), pp.114-115 ↩︎
  6. Duncan, L.E., et al. (2018), p.114 ↩︎
  7. Howie, H., et al. (2019), p.418 ↩︎
  8. Howie, H., et al. (2019), p.418 ↩︎
  9. Burback, L., et al. (2024), p.562  ↩︎
  10. Burback, L., et al. (2024), p.563 ↩︎
  11. Asmussen, K., et al. (2020), p.6 ↩︎
  12. Asmussen, K., et al. (2020), p.23 ↩︎
  13. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  14. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  15. 親の受けたストレスは、DNA配列の変化を伴わずに子供に遺伝 | 理化学研究所 ↩︎
  16. Burback, L., et al. (2024), p.563 ↩︎
  17. Burback, L., et al. (2024), p.563  ↩︎
  18. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  19. Howie, H., et al. (2019) , p.418 ↩︎
  20. Burback, L., et al. (2024), p.562  ↩︎
  21. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  22. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  23. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  24. Burback, L., et al. (2024), p.561 ↩︎
  25. Burback, L., et al. (2024), p.561 ↩︎
  26. Burback, L., et al. (2024), p.562 ↩︎
  27. Duncan, L.E., et al. (2018), p.115 ↩︎

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