PTSDを発症させやすいトラウマとは?

PTSDを発症させやすいトラウマとは?

みなさんこんにちは!前回は、トラウマを体験したすべての人がPTSDを発症するわけではないという事実に注目し、「PTSDの発症リスクが高い人はどんな人か?」を見てきました。今回は、トラウマの種類に焦点を当て、「どんなトラウマがPTSDの発症につながりやすいか?」を詳しく見ていきたいと思います。

前回の記事はこちらから⬇️

発症しやすい条件

トラウマを経験しても、全員がPTSDの発症に至るわけではありません。とある世界的な調査では、一人の人間が一生の中でトラウマ的な出来事に遭遇する確率は70.4%であるのに対し、PTSDの生涯有病率は4%だということがわかっています1

それでは、どんなときにPTSDを発症しやすくなるのでしょうか?

PTSDが発症するかどうかには、「トラウマを経験した個人の特徴(どんな人がトラウマを受けたか?)」、「その出来事の特徴(どんな出来事だったか?何回経験したか?など)」の2つの要素が関わっています2

もちろんこの2つの要素は完全に切り離せないことも多いのですが、今回は特に「その出来事の特徴(どんな出来事だったか?何回経験したか?など)」に注目して見ていきましょう。

PTSDを引き起こしやすいトラウマの特徴は、大きく以下の4つです3

  • 対人間でのトラウマ
  • 繰り返し何度も経験されるトラウマ
  • 長期間にわたって経験されるトラウマ
  • 外傷性脳損傷(TBI)後のトラウマ

対人間でのトラウマ

「トラウマ」や「PTSD」と聞くと、大きな災害やテロ、事故などのイメージが思い浮かぶ人も少なくないかもしれません。しかし、意外にも発症リスクが比較的高いのは、対人トラウマであるということが複数の研究で分かっています。

例えば、対人トラウマの代表例である性的暴行は、PTSDの発症リスクを大幅に高めます。レイプでは17.4%から19%それ以外の性的暴行では10.5%から16%の人が被害後にPTSDを発症する45ことがわかっていて、自然災害での発症率が0.7%、戦争地域での生活による発症率が1.4%6であることを考えると、これはかなり高い数字だと言えるでしょう。

また、親しい人や信頼していた人によって引き起こされるトラウマ、「裏切りのトラウマ(Betrayal trauma)」も、PTSDの発症や予後に大きな影響を及ぼすタイプのトラウマとして知られています。例えば恋人からの身体的暴力では、被害後11.7%の人がPTSDを発症していることが報告されています7が、同じ身体的暴力のカテゴリーであっても、戦闘体験では3.6%、通常の身体的暴行では2.5%の発症率8です。もちろん戦闘体験や通常の身体的暴行も人によって作り出されるトラウマですが、親密な対人関係における裏切りの要素がさらに加わることで、発症リスクが4倍近くに跳ね上がるということですね。

ちなみにこの裏切りのトラウマは、幼少期に虐待的な環境で育つことで遭遇のリスクが特に高まることが知られています9。複数回または長期にわたる対人トラウマにさらされていた子供たちに関する報告では、PTSDの基準を満たしたのは半数未満であったものの、大多数はその他のトラウマ関連症状を示したうえ、半数が感情の調整困難、注意や集中力の欠如、自己イメージの低下、衝動性、攻撃性、危険を冒す行動を示したとのことでした10。このような行動が、大人になってから不安定な人間関係に巻き込まれるリスクを高め、結果として裏切りのトラウマやその他の対人トラウマへの遭遇率を高める要因になってしまうのです。

対人トラウマの最も特徴的な点は、こうしたトラウマ的な出来事が意図的に作り出されること11だと言えるでしょう。そのため、対人トラウマを受けた被害者は、対人関係や治療関係(治療者との信頼関係)に深刻な影響を抱え、結果としてPTSDの慢性化や重篤化をはじめとしたさまざまなリスクを負うことになるわけです12

繰り返し経験されるトラウマ

トラウマを繰り返し経験することにより、感作(刺激に対して敏感になり反応が強くなること)が促進され、結果としてPTSDの発症リスクが高まることがあります13。たとえば過去に身体的暴力を経験したことがあると、その後に同様の暴力を受けた際のPTSDリスクが高まることがわかっています14

一方で、警察官や爆撃地域への入植者、宗派間暴力への関与者のような反復的な暴力にさらされる人々では、PTSDの発症率が低いという報告もあります15

一見矛盾するように感じられるこれらの結果ですが、「健康な兵士効果(Healthy Warrior Effect)」での説明が試みられています16。つまり、そのような職業に就く人や、そのような行動を選択する人は、そうでない人々に比べてもともとストレス耐性が高いのではないかという考え方です。

過去のトラウマによって精神的な問題を抱えることによりPTSDに対する脆弱性が生まれるという指摘17やACEs(逆境的小児期体験)がその後の人生に与える深刻な影響などについても考えると、一般的な条件では、繰り返し経験するトラウマはPTSDの発症率を高めると考えて問題なさそうです。

長期間にわたって経験されるトラウマ

長期間にわたって経験されるトラウマも、繰り返し経験されるトラウマと同様に感作を促進させ、PTSDの発症リスクを高めます。

たとえば、長期間強いストレスに晒されると、ストレス対処に関わるHPA軸が感作され、今までとは異なるようなタイプの脅威に対してであっても、ストレス反応が過敏になることが示唆されています18

外傷性脳損傷(TBI)後のトラウマ

転落や事故、暴行、スポーツなどにより脳に損傷を負った状態、すなわち外傷性脳損傷(TBI)後のトラウマ経験でもPTSDの発症リスクが高まります。そうでない場合に比べてなんと2倍以上、特に軍人においては4.18倍にも高まることが報告されています19

女性ではレイプやその他の性的暴行によるPTSDの発症が多いのに対して、男性では戦闘に関連した身体的暴力がPTSDの発症原因になりやすい傾向があります20

おわりに

ここまで、ざっとPTSDを発症させやすいトラウマの種類について見てきました。前回扱った個人的なリスク要因と重なる部分もいくつか見られましたね。

今回は便宜上4種類に分類しましたが、とくに「対人間でのトラウマ」「繰り返し何度も経験されるトラウマ」「長期間にわたって経験されるトラウマ」の3つは、児童虐待や家庭内暴力のように重なって生じる場合も少なくありません。今回の「どんなトラウマがPTSDを発症させやすいのか?」という視点が、複雑性トラウマやACEs(逆境的小児期体験)などの深刻な影響を異なる観点から捉え直す手助けになっていたら幸いです。

今回は駆け足になってしまったので、またそれぞれについて詳しく記事にできたらと思います。


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ここまで読んでくださりありがとうございました!また次回の記事でお会いしましょう!😊

本記事の参考文献・サイト

  1. Kessler, R. C., et al. (2017), pp.5-6 ↩︎
  2. Burback, L., et al. (2024), p.562  ↩︎
  3. Burback, L., et al. (2024), pp.559-560 ↩︎
  4. Liu, H., et al. (2017), p.6 ↩︎
  5. Kessler, R. C., et al. (2017), p.7  ↩︎
  6. Liu, H., et al. (2017), p.7 ↩︎
  7. Kessler, R. C., et al. (2017), p.7 ↩︎
  8. Kessler, R. C., et al. (2017), p.7 ↩︎
  9. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  10. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  11. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎
  12. Burback, L., et al. (2024), p.560  ↩︎
  13. Burback, L., et al. (2024), p.559 ↩︎
  14. Liu, H., et al. (2017), p.9 ↩︎
  15. Kessler, R. C., et al. (2017), pp.11-12 ↩︎
  16. Kessler, R. C., et al. (2017), p.12 ↩︎
  17. Kessler, R. C., et al. (2017), p.12 ↩︎
  18. Nishimura, K. J., et al. (2022), p.9 ↩︎
  19. Burback, L., et al. (2024), pp.559-560 ↩︎
  20. Burback, L., et al. (2024), p.560 ↩︎

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