みなさんこんにちは!早いもので、2月にブログをスタートしてから1か月が経ちました。ブログを読んでくださっている方々や各SNSを見てくださっている方々、応援してくださっている方々、いつも本当にありがとうございます!日々の大きなモチベーションになっています💫
この1か月間はPTSDをスタート地点として、各PTSD関連障害の症状や、それらを引き起こしやすいトラウマの種類、個人的なリスク、ACEs(逆境的小児期体験)などを駆け足で紹介してきました。
今月からは、解離に焦点をあてていきたいと思います。これまでの記事にも何度か登場しましたが、いまいち掴みどころがなく、その実態や全貌が見えにくい解離。トラウマ関連疾患と非常に親和性が高いだけでなく、実は多くの人が日常的に経験している現象でもあるのです。
今回の記事では、解離がそもそもどういう現象なのかを知るために、発生のしくみ、実際の症状としての現れ方、そして関連する病気について詳しく見ていきましょう。
解離型PTSDについてはこちらからどうぞ!⬇️
目次
解離のしくみ
解離の概念は「記憶、アイデンティティ、意識、知覚、運動制御など、1つまたは複数の心理的機能の通常の主観的統合の中断および/または不連続」1と定義されています。しかしこれだけでは具体的にどのような現象を指しているのかいまいち把握しづらいですよね。
そこで、まずはどのようにして解離という現象が起こるのかを見ていきましょう。
凍り付き反応(Freezing response)
動物などで見られる凍り付き反応は、トラウマを経験しているときに生じる解離のしくみととてもよく似ています2。
- 捕食者などの危険がせまる
↓ - 定位反応(orienting response)
危険を察知し、そちらの方向に素早く注意を向ける。
↓ - 闘争・逃走反応(fight or flight reaction)
交感神経系の働きが優位になり、心拍数や血圧が上昇したりストレスホルモンが放出されたりして、戦うか・逃げるかといった能動的な方法で危機に対処する準備が始められる。
↓ - 凍り付き反応(freezing response)
闘争・逃走反応では危機への対処が難しそうな場合、受動的な方法で危機に対処する準備が始まる。副交感神経系の働きが増加し、覚醒システムがシャットダウンし、持続性不動状態(tonic immobility)、いわゆる擬死状態になる。身動きを取らないことで、捕食者に発見されるリスクを減少させる。
つまり、もう少し人間らしい状況に置き換えてみると、トラウマとなるようなショッキングな出来事にさらされているとき、自ら状況をコントロールしたりその場から離れたりするのが難しい場合には、動物でいう「凍り付き反応」、すなわち解離モードへと身体が切り替わり、受動的な方法で危機に対処しようとし始めるというわけですね。これが基本的な解離のしくみです。




複雑性トラウマと切り離し
ところで、この「自ら状況をコントロールしたりその場から離れたりするのが難しい場合」という表現を聞いて、複雑性トラウマを思い出した方も多いのではないでしょうか?
複雑性トラウマとは?
児童虐待や家庭内暴力(DV)、拷問、奴隷制度、戦場でのサバイバルなど、逃げるのが難しい環境で、死の恐怖やそれに匹敵する脅威に長期間・繰り返しさらされトラウマ化したもの
ー PTSD(心的外傷後ストレス障害):CPTSD(複雑性PTSD)とDissociative Subtype of PTSD(解離症状を伴う心的外傷後ストレス障害)より抜粋
その連想はとても的確で、実際、人間における解離の発達には、心理的トラウマ、特に重度で慢性的な児童期の虐待・ネグレクトなどのストレスが深く関係しているということが複数の研究で示唆されています3。
加えて、人間では、身体が動かなくなり擬死状態になる持続性不動状態だけでなく、さまざまな形での受動的な防衛法としての解離が用いられることも広く知られています。
- たとえば、離人感や現実感消失、感覚麻痺などは、自分自身から当事者性を切り離すことにより、耐え難い感情を和らげたりトラウマに対しての意識を減らしたりして、圧倒的な体験との間に心理的な距離を作って心を守ります4。
- また、無痛覚や体外離脱体験などは、自分自身から身体感覚を切り離すことにより、物理的な痛みを感じにくくする効果があります5。
このように、自分自身から何かを切り離すことで、危機的状況から受動的に防衛するのが、人間における防衛法としての解離の基本原理だということです。ここまでくると、最初に示した解離の概念的な定義「記憶、アイデンティティ、意識、知覚、運動制御など、1つまたは複数の心理的機能の通常の主観的統合の中断および/または不連続」という言葉に対しても、だいぶイメージを持ちやすくなったのではないでしょうか。
とはいえ、動物モデルとは異なり、人間では必ずしも脅威、すなわちトラウマ体験だけにより解離が引き起こされるのではなく、その他の遺伝的・神経生物学的・認知的素因や環境要因なども複合的にかかわっていることが指摘されています6。
神経科学的な知見
たとえば、神経科学的な観点から観察してみると、解離は
- 前頭前皮質(prefrontal cortex;思考や創造性、実行機能、意思決定などに関連している脳の部位)の活動の増加
- 扁桃体(amygdala;情動記憶や社会的刺激の認知などに関連している脳の部位)の活動の減少
- 身体感覚の変化
- 視覚処理の変化
などと関連していると言われています7。しかし解離の中でも、具体的にどの症状が出ているか、何の疾患を有しているかによって脳の働きが大きく異なる場合があるようです。詳しくはまた別の記事で紹介しますね。
症状の種類
さて、ここまでトラウマに対する切り離しとしての解離について、そのしくみを詳しく見てきました。とはいえ、冒頭でも軽く触れたように、白昼夢や映画への没入のような「トラウマには関連しない、一般的に広く体験される現象」も、実は解離に含まれます。
それでは、病的な解離とは一体どのようなものを指すのでしょうか?
ここからは、
- 軽度/重度
- 心理的/身体的
- 状態解離/特性解離
の3つの切り口から、症状としての解離を詳しく見ていきます。
軽度/重度
一般的に広く見られる解離の例としては、白昼夢や高速道路催眠現象(高速道路を走行中に眠気を感じること)、本や映画への没入(現実の周囲の状況から意識が離れる状態)などが挙げられます。これらはすべて、目の前の現実との接触が薄れる現象だと言えるでしょう8。
現実との接触が薄れるという点では、離人感や現実感消失も似た性質を持つ現象です。
- 離人感(depersonalization)
自分が身体の外にいるかのように感じたり、自分に起こっている出来事を遠くから眺めているように感じたりする9。 - 現実感消失(derealization)
周囲の物事や人々が本物ではないように感じる10。
これらの症状は、健康な人たちの間でも睡眠不足や疲労、ストレス、物質乱用などの結果見られることがある11ものですが、そうした理由なく慢性的に生じるようになると、病的な解離として大きな苦痛や生活への支障をもたらします。
さらに重度の病的な解離としては、
- 解離性健忘(dissociative amnesia)
通常アクセスできる情報にアクセスできなくなる。例えば、特定の出来事や期間の記憶を思い出せない限局性健忘や、出来事の特定の側面やある期間内のいくつかの出来事を思い出せない選択的健忘、自分のアイデンティティや経歴などの情報を完全に失う全般性健忘など12。 - 持続性不動状態(tonic immobilization)
運動プロセスを制御できなくなる。 - 解離性フラッシュバック
意識や行動において感覚的・感情的・認知的情報が意図せずに侵入する。
などの現象が挙げられます13。
これらの現象や体験は個々で特定の疾患や障害として確立されているものではありませんが、こうした病的な解離体験が日常生活に支障を来たすようになると、その他の症状と合わせて診断名が下されることがあります。
病的な解離体験は解離性障害で最も多く見られ、その後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)、BPD(境界性パーソナリティー障害)、転換性障害が続きます。その他、統合失調症やうつ病、双極性障害、強迫性障害などでも生じることがあるようです14。
心理的/身体的
解離症状は、心理的に表出するものと身体的に表出するものに分類することもできます。
心理的な解離症状としては、
- 離人感
- 現実感消失
- (健忘を含む)記憶の断片化
トラウマ体験の感覚的・感情的・認知的側面が別々の要素として符号化・保存されることにより、侵入的な解離性フラッシュバックの原因になることもある15。 - アイデンティティの混乱
解離性同一性障害などで見られるように、明確に異なる人格が複数存在する場合もあれば16、BPD(境界性パーソナリティー障害)などで見られるように、思考や感情、行動などが主観的あるいは客観的に、矛盾・曖昧・断片的・不整合に感じられる場合もある17。
などが挙げられます18。
一方、身体的な解離症状としては、
- 運動制御(motor control)の変化
脳内の異常な電気信号によるものではないが発作様の症状を示す解離性発作(dissociative seizures)19や、失明、歩行困難20など。突然生じることが多く、短期間で消失する場合もあれば長期間持続することもある21。 - 身体表象(body representation)の変化
自分の体に対して別人のもののように感じたり22、負のイメージを持ったり23する。 - 痛みの知覚(pain perception)の変化
しびれや感覚麻痺、無痛覚など、痛覚の消失や減少。
などが挙げられます24。
もともとの解離の成り立ち、危機に対する受動的な防衛法としての凍り付きを思い出すと、身体的な症状に解離が深く関わっていることも十分に納得できますね。
状態解離(state dissociation)/特性解離(trait dissociation)
最後の切り口は、状態解離と特性解離です。あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、初めの方に出てきた「一般的な解離」と「病的な解離」に少し似た概念です。
トラウマや強いストレスへの反応として解離を学習した人は、その後の人生においても解離反応を使いやすくなる傾向にあり、軽微なストレス因に対しても解離で対応しやすくなることが知られています27。
日常的に起こるようになった解離症状は、治療の妨げや不適応の原因になってしまうこともあり28、そういった点で、状態解離と特性解離を分けて考え、個人の解離傾向を把握しておくことはとても意味のあることです。

おわりに
今回は、解離の発生のしくみや症状としての現れ方を通して、そもそも解離とは何なのか?を見てきました。
次回以降は、各疾患や障害との関わり、神経科学的な特徴などにフォーカスしながら、さらに詳しく解離の性質を見ていく予定です。
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ここまで読んでくださりありがとうございました!また次回の記事でお会いしましょう!😊
本記事の参考文献・サイト
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- Krause-Utz, A., Frost, R., Chatzaki, E., Winter, D., Schmahl, C., & Elzinga, B. M. (2021). Dissociation in Borderline Personality Disorder: Recent Experimental, Neurobiological Studies, and Implications for Future Research and Treatment. Current psychiatry reports, 23(6), 37.
- Perez, D. L., Matin, N., Williams, B., Tanev, K., Makris, N., LaFrance, W. C., Jr, & Dickerson, B. C. (2018). Cortical thickness alterations linked to somatoform and psychological dissociation in functional neurological disorders. Human brain mapping, 39(1), 428–439.
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