愛着パターンが摂食障害や身体醜形障害に影響を与える?愛着とボディイメージの関係性

愛着パターンが摂食障害や身体醜形障害に影響を与える?愛着とボディイメージの関係性

みなさんこんにちは!前回から愛着(アタッチメント)に焦点を当て、関連するトピックを見ています。

第1回では、愛着と慢性的な解離傾向について紹介しました。第2回の今回は、愛着とボディイメージの関係性についてこちらの論文を中心に紹介していきたいと思います。

前回の記事はこちらからどうぞ!⬇️

ボディイメージとは

ボディイメージとは、一言で表現すると自分の外見に関する認知的な構成のことです1。具体的には、身体に対する内的イメージや思考、感情なども含む概念で、ボディスキーマ(身体のさまざまな部位がどこに・どのように位置していて、それらが空間や時間の中でどのように動いているか、身体がきちんと機能しているかなどを知覚する感覚2)とも関連しています3

統一された定義は存在していないのが現状ですが4、一部の研究者によると、ボディイメージは次の4つの要素から構成される多面的な概念であるとされています5

  • 認知的要素
    身体の形や見た目に関する信念思考
  • 知覚的要素
    自分の身体やその各部位の大きさ・形・重さについての知覚
  • 感情的要素
    身体に対する感情や、満足感/不満足感
  • 行動的要素
    身体を確認したり変化させたり、隠したりするために行う行動(鏡を頻繁に見る、ダイエット、身体を意識することを回避するなど)。

つまり、他人から見て自分の外見がどのように見えるかといった客観的な情報だけでなく、それに対して自分がどんな印象や感情を持っているか、その結果どのように行動するかまで含まれるかなり広い概念だということですね。

ボディイメージの障害

ボディイメージがネガティブなものである場合、抑うつや対人不安、性機能の問題、自殺傾向、低い自尊心、生活の質の低下など、性別を問わず心理社会的に広く悪影響を及ぼす可能性があります6

ここからは、なかでもとりわけボディイメージの混乱と関連性の深い疾患をいくつか見てみましょう。

摂食障害・身体醜形障害(BDD)

摂食障害食行動に深刻な障害をきたす疾患で、具体的には、極度に食事を避けたり制限したりする神経性無食欲症(=拒食)、異常な量の食べ物を摂取する過食性障害(=過食)、過食ののち不健康な方法で体重増加を防ごうとする神経性過食症(=過食嘔吐)、食べ物の見た目や食感、食べることによる窒息や嘔吐などへの恐怖から食事の量や種類を制限する回避・制限性食物摂取障害(ARFID)などが含まれます7

また、身体醜形障害(BDD)は自分の外見の欠点(他人から見るとほとんど、あるいはまったく気にならない程度のもの)で長時間悩み続けてしまう疾患で、具体的には、身体の特定の部分について強い不安を感じたり、自分の見た目を他人と頻繁に比較したり、鏡を何度も見る/あるいは見るのを避けたりすることがあります8

この二つの疾患はどちらもボディイメージの歪みと強く関連していて、自分のボディイメージに強い不満足感を持っていたり、自分の身体を受け入れがたいと感じたりする点で共通しています9

身体完全同一性障害(BIID)

身体完全同一性障害(BIID)は、自分自身の身体や健康な手足に対する所有感が弱くなる稀な疾患で、具体的には、理想の自己像に近付くために手足の切断を望んだり10、自らを傷つけたり11する行動が見られることがあります。

脳の障害に起因するボディイメージの破綻12や、ボディイメージとボディスキーマとの不一致13などが要因の一部として考えられています。

機能性神経症状症/転換性障害(FND)

ボディイメージは単なる身体の外見だけでなく、内側から感じる触覚固有感覚内受容感覚とも関連していると主張する研究者もいます14

精神的な要因が身体症状として表出する機能性神経症状症(=転換性障害、FND)では、内受容プロセスと感情的・共感的プロセスの統合に関わる部位の減少をはじめとした、身体的な感覚と心理的な感覚の統合が障害されることが確認されています15

詳しくはこちらの記事をどうぞ!⬇️

愛着パターンと身体的自己

こうしたボディイメージの混乱やそれに伴う深刻な症状は、一体何が原因で生じるのでしょうか?

ボディイメージの発達や維持には、神経生理学的・社会文化的・認知的な要因(性別やファッション、教育、家庭、友人グループ、社会的関わりの変化、身体的変化など)が複雑に関わっていると考えられていますが16、今回のテーマである愛着スタイルも、実は個人のボディイメージの形成や維持に大きな影響を与えている可能性が指摘されています。

身体的自己

愛着とは乳児が親などの養育者と築く情緒的な絆のことで17、愛着パターンは養育者の反応に基づき構築される内的作業モデル(徐々に内在化・一般化された期待や、出来事の知覚・解釈方法のセット)の一種です18

人生最初の数か月においては、愛着のニーズはまず何よりも身体のニーズであることから、養育者からの応答、すなわち愛着形成のプロセスが、身体的自己自分自身を身体的にどのように捉えるかという感覚)の構成意味づけに大きく影響し、結果としてどんなボディイメージを持つかを左右する可能性が指摘されています19

無秩序型の愛着とボディイメージ

愛着のパターンにはいくつかのタイプがありましたが、なかでも無秩序型(disorganized)は

  • 怖がらせると同時に怖がっているような養育者の振る舞い
  • 養育者が恐怖の源でありながら助けてくれる人でもあるような二重性のある状況
  • 乱れた情緒的コミュニケーション

などの混乱した養育を繰り返し体験することで、内的体験に一貫性を持つことができず、自分自身に対する感覚や他者に対する期待がバラバラになり、慢性的な解離傾向を引き起こすような愛着パターンでした20

詳しくはこちらの記事をどうぞ!⬇️

こうした愛着パターンを持つ人々は、安定型や不安型(不安回避型/不安両価型)の愛着パターンを持つ人々に比べて身体に対する不安を感じやすく、結果として自分の身体に問題を見出しやすいことが指摘されています21

無秩序型愛着が身体的自己の構成や意味づけを妨害し、結果としてボディイメージの混乱を引き起こす理由として、

  • 身体的自己と混乱・恐怖の結びつき
    身体的ニーズに対する養育者の応答が混乱恐怖に満ちたものであるため、自分の身体も問題化されやすい。
  • 「行動の有効性」の確認
    「自分の行動で状況を変えられる」という行動の有効性を混乱した養育の中で実感できなかったために、怒りや恐怖、脆弱さ、不全感、無力感などへの対処が、ボディイメージの行動的要素(=身体を確認したり変化させたり、隠したりするために行う行動)に繋がりやすい。
  • 言語化できない感情・体験の身体化
    混乱した養育の中で、子どもが出すサインに対する養育者の反応がずれていたり不適切であったりした場合、感情や経験を共有することに困難さが生じるため、言葉にできない感情や体験が行動や身体症状として表現されやすくなる

ことが指摘されています22

身体的な解離症状には、運動制御の変化痛みの知覚の変化に並んで身体表象の変化も挙げられますが23、複雑性トラウマや解離に関連した疾患において、こうしたボディイメージの混乱が頻繁に見られることを考えると、慢性的な解離傾向とボディイメージとの関連性、またそれらと無秩序型の愛着パターンとの強いつながりをより深く実感できますね。

おわりに

今回は、ボディイメージと愛着の関係性、特に無秩序型愛着が引き起こすボディイメージの混乱について詳しく見てきました。

ボディイメージに関連する疾患を具体的に見ることで、無秩序型愛着が引き起こす「隠れたトラウマ」の身体的な側面がより強調されたのではないでしょうか。

次回は愛着とSNS依存について扱う予定です。


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<2025/6/5追記>

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本記事の参考文献・サイト

  1. Sattin, D., et al. (2023) p.4 ↩︎
  2. Body Schema | SpringerLink (2025/4/18閲覧) ↩︎
  3. Sattin, D., et al. (2023) p.4 ↩︎
  4. Sattin, D., et al. (2023) p.4 ↩︎
  5. Sattin, D., et al. (2023) p.4 ↩︎
  6. Bonev, N. & Matanova, V. (2021) p.1 ↩︎
  7. Eating Disorders: What You Need to Know – National Institute of Mental Health (NIMH) (2025/5/23閲覧) ↩︎
  8. Body dysmorphic disorder (BDD) – NHS (2025/5/23閲覧) ↩︎
  9. Sattin, D., et al. (2023) p.15 ↩︎
  10. Sattin, D., et al. (2023) p.13 ↩︎
  11. Body integrity identity disorder (BIID)–is the amputation of healthy limbs ethically justified? – PubMed (2025/5/23閲覧) ↩︎
  12. Body integrity identity disorder (BIID)–is the amputation of healthy limbs ethically justified? – PubMed (2025/5/23閲覧) ↩︎
  13. Sattin, D., et al. (2023) p.13 ↩︎
  14. Sattin, D., et al. (2023) p.4 ↩︎
  15. Perez. D. L., et al. (2018) p.434 ↩︎
  16. Sattin, D., et al. (2023) p.5 ↩︎
  17. attachment – APA Dictionary of Psychology (2025/5/16閲覧) ↩︎
  18. Damis, L. F., et al. (2022) p.13 ↩︎
  19. Bonev, N. & Matanova, V. (2021) p.2 ↩︎
  20. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.3 ↩︎
  21. Bonev, N. & Matanova, V. (2021) p.3 ↩︎
  22. Bonev, N. & Matanova, V. (2021) p.3 ↩︎
  23. Krause-Utz, A., et al. (2021) p.2 ↩︎

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