PTSD(心的外傷後ストレス障害):基本的な4つの症状と診断基準

PTSD(心的外傷後ストレス障害):基本的な4つの症状と診断基準

みなさんこんにちは!今回は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)についての基本的な知識を整理してご紹介します。

PTSDの4つの症状

PTSDの症状は大きく以下の4つに分類されます。

  • 侵入・再体験(Intrusion/Re-experiencing)
  • 回避(Avoidance)
  • 認知および気分の陰性変化(Alteration in cognition and mood)
  • 覚醒度かくせいどおよび反応性の変化(Alteration in arousal and reactivity)
侵入・再体験(Intrusion/Re-experiencing)

トラウマとなった出来事がまるで再び起こっているかのように感じられる症状です。

  • フラッシュバック トラウマとなった出来事が再び起こっているかのように感じたり、行動したりする。
  • 悪夢 トラウマとなった出来事に関する苦痛な夢を繰り返し見る。
  • 侵入思考 トラウマとなった出来事についての記憶が繰り返し、しかも自分の意思に反して思い出される。
  • 身体的・心理的苦痛 トラウマとなった出来事を思い出させるようなもの(トリガー)に接すると、呼吸や脈が速くなったり、心理的な苦痛を感じたりする。

トラウマとなった出来事に関する思考や感情がこのような症状のトリガーになることもあれば、その出来事を思い出させるような言葉や物・状況がトリガーになることもあります。

回避(Avoidance)

トラウマとなった出来事そのものや、それらを思い出させるようなものを避けるようになります。

  • 思考・感情・記憶の回避 トラウマとなった出来事そのものについて考えたり思い出そうとしたりすることを避ける。出来事の一部を思い出せなくなる解離性健忘けんぼうが起こることもある。
  • トリガーの回避 出来事に関する記憶を思い出させるような状況・場所・人・会話・物事・活動などを避ける。
認知および気分の陰性変化(Alteration in cognition and mood)

トラウマとなった出来事が起こる前に比べて、世界や物事、自分や他人に対する見方や気分がネガティブになります。

  • ネガティブな信念や期待 「誰も信頼できない」「自分は悪い人間だ」といったように、自分や他人、世界について過度に否定的に考える。
  • 非難 出来事が起こったことやその結果について、自分自身や他人を過度に責めるようになる。
  • ネガティブな感情や思考 罪悪感や恥、怒り、恐怖などを持続的に経験する。
  • 興味の喪失 以前は楽しんでいた、あるいは定期的にできていた活動に参加しなかったり、興味を示さなかったりする。以前は親しみを感じていた人たちに対して親しみを感じなくなったり、趣味や仕事への関心が低下したりと、他者からの孤立感や疎遠そえん感を感じることもある。
  • ポジティブな感情の喪失 幸福感や満足感を感じることが難しくなる。

「家族や友人など元々親しかった人に対してつながりを持てないような感覚」や「周囲から孤立しているような感覚」が、これらの症状の影響でさらに悪化してしまうこともあります。

覚醒度および反応性の変化(Alteration in arousal and reactivity)

刺激に対して敏感になり、生活リズムや対人関係、身体の状態などに様々な支障をきたすようになります。

  • 睡眠障害 寝つきが悪く、眠り続けることが難しい。眠れたとしても眠りが浅く、悪夢を見ることもある。
  • 易怒性いどせいまたは怒りの爆発 人や物に対して攻撃的になる。
  • 無謀むぼう 危険なことや自己破壊的なことをする。
  • 集中困難 以前は集中できた作業に集中できない。
  • 過覚醒・過警戒 トラウマとなった出来事を思い出させる物音や動きに過剰に反応し、些細なことで驚きやすくなる。周囲で起こっていることに過剰に注意を払い、常に緊張している。

PTSDの診断基準

アメリカ精神医学会が定めた診断基準(DSM-5)によると、PTSDとして診断されるためには、(1)トラウマとなりうるような重大な出来事に晒された経験と、(2)上記の症状のうち

  1. 侵入・再体験症状から1項目以上
  2. 回避症状から1項目以上
  3. 認知と気分の陰性の変化から2項目以上
  4. 覚醒度と反応性の著しい変化から2項目以上

がそれぞれ1ヶ月以上持続することで、(3)強い苦痛を伴い、生活に大きな支障をきたしている必要があります。

ここでの「トラウマとなりうるような重大な出来事に晒された経験」とは、必ずしも自分自身に直接その出来事が起きた場合に限らず、その出来事を目撃したり、身近な人に起こったことを知ったり、報道やSNSなどを通じて繰り返しトラウマ的な映像や画像を目撃したりするなど、ショッキングな出来事を間接的に経験することも含まれます。

PTSDに対して「トラウマの原因を過度に避けたり怖がったりする病気かな?」と曖昧なイメージを持っていた方も多かったかもしれませんが、こうして改めて診断基準を見てみると、イライラ感や孤立感を感じやすくなる、本当は思い出したくないのに思い出してしまうなど、周りから見えづらかったり想像されにくかったりするような症状も多く含まれていることがわかりますね。「早く忘れなよ」「ポジティブなことだけ考えよう」「いつまで引きずってるの?」といった病気の症状を患者さんの意志や努力の問題に転嫁する声かけは、患者さんを前向きにさせるどころか、むしろ症状の改善に対して逆効果であることがよく理解できると思います。

PTSDを引き起こしやすいトラウマ

ところで、トラウマになりうるような衝撃的な出来事を経験したあとでも、すべての人がPTSDを発症するとは限りません。それでは、いったいどんな場合にPTSDを発症しやすくなるのでしょうか?

こちらの論文によると、PTSDを発症しやすいトラウマのタイプとして、次の4つが挙げられています。

  • 人から人に向けて行われる暴力(特に性暴力)
  • 繰り返し、何度も経験されるトラウマ
  • 長期間にわたって経験されるトラウマ
  • 外傷性脳損傷(TBI)とともに経験されるトラウマ

これらについては、また別の記事にして詳しく紹介します。

<2025/3/1追記>
こちらの記事に詳しくまとめましたので、よろしければご覧ください!⬇️

そのほかの疾患との関連性

また、PTSDの影響によって、精神疾患をはじめとしたさまざまな疾患の発症リスクが高まる場合があります。例えば、

  • うつ病
  • 物質使用障害
  • 記憶障害
  • 睡眠障害
  • 認知症

のようなこころの病気1に加え、

  • 免疫調節不全
  • 心血管疾患
  • 慢性疼痛
  • 過敏性腸症候群(IBS)

のようなからだに影響を及ぼす病気2を発症するリスクも高まると言われています。こちらについてもまた別の記事にして詳しく紹介しますので、少々お待ちください。

現在の診断基準に対する批判

さて、ここまでPTSDの基本的な情報について紹介してきました。今回紹介した診断基準を見てどのように感じましたか?

こちらの論文では、PTSDの現在の診断基準をめぐって次のような問題点が指摘されています。

  • この診断基準では、病気の重症度期間を区別することができない。
  • そもそも、病気の症状そのものその結果起きたことについて区別するのが難しい。
  • PTSDの患者さんが治療を受けるきっかけとなることの多い、頭痛や胃腸の不具合、疲労などの身体症状が扱われていない。
  • トラウマはPTSDの発症に必要不可欠だが、逆に言うとトラウマとなった出来事を経験するだけではPTSDの発症につながらない。それなのに、この診断基準では診断を満たすための恣意的なカットオフ(該当する症状の数の制限)を設定するなど、患者それぞれの性質やバックグラウンドに配慮できていない。

たしかに、たとえば睡眠がしっかりとれていないためにイライラしやすくなってしまうのか、あるいはPTSDの症状としてイライラが出てきてしまっているのかを区別するのはかなり難しいですよね。また先ほど見たように、PTSDが心身に広い範囲で影響を与えることがわかっているにもかかわらず、診断基準でそのような身体症状について言及されていないと、病気についての正しい知識が広まりにくくなる可能性があるのではないかと想像できます。

さらに、そもそもPTSDが発症するかどうか、もし発症したらどれだけ深刻になるか、どんな予後を迎えるか、といった各要素には、それぞれの患者が思考や行動をどのようにコントロールするか(実行機能)、ストレスへどう対処するか(コーピングスタイル)、物事をどのように捉えるか(意味づけ)や、各々のパーソナリティ、それまでの社会的・文化的・個人的経験などが複合的にかかわっているということがわかっています。

PTSDの診断基準を知ることはPTSDやトラウマを理解するうえで必要不可欠ですが、必ずしもこの診断基準がそれらの全てではないということも、頭に入れておくことが重要だと言えるでしょう。

そして、このような批判や議論の流れを受け、比較的最近診断基準に収録されるようになったのが、複雑性PTSD(CPTSD)解離型のPTSD(Dissociative Subtype of PTSD)です。
次回の記事で詳しく紹介します。


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ここまで読んでくださりありがとうございました!また次回の記事でお会いしましょう!😊

本記事の参考文献・サイト

  1. ここでは、DSM-5-TRに収録されている病気を「こころの病気」、それ以外を「からだに影響を及ぼす病気」として区別しています。 ↩︎
  2. ここでは、DSM-5-TRに収録されている病気を「こころの病気」、それ以外を「からだに影響を及ぼす病気」として区別しています。 ↩︎

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