離人感・現実感消失⑤認知行動療法だけじゃない?身体にアプローチする心理療法や自分でできる対処法

離人感・現実感消失⑤認知行動療法だけじゃない?身体にアプローチする心理療法や自分でできる対処法

みなさんこんにちは!5月ですね。いつもブログやSNSをご覧いただき、本当にありがとうございます!5月の一週目は体調不良により記事が投稿できずすみませんでした🙇無事良くなってきたので、無理のないペースで今週から再開していきたいと思います。

4月から離人感・現実感消失を中心に、関連するトピックを詳しく見ているところでした。第1回は当事者の方へのアンケートから見えた症状の実態を、第2回はDIDその他の解離症状との関連を、第3回は不思議の国のアリス症候群を、第4回は二次障害としての機能障害やNSSI(非自殺性自傷)をそれぞれ紹介しました。

当事者の方へ実施したこちらのアンケートの問3(「その他、もし離人感や現実感消失について知りたいこと、記事で扱ってほしいことなどがありましたら教えてください。」)では、

  • 対処法や、その後の疲労感のような重力がかかったような感覚からの回復方法について知りたいです。
  • 症状がつらいとき、他の人はどんな対策をしているのかなど知りたいです。そもそも対策があるのかわかりませんが。私の場合、一番辛かった頃は、体の感覚を感じたくて、いつも口を動かしていました。お菓子をよく食べて過食をしていました。そのせいで体重が10キロ以上増えましたが、それで体が浮いている感じをなんとか止めようとしていたのかもしれません。
  • 良くなられた方の体験記があれば読みたいです。

といった、「どうすれば良くなるのか」に関する声をいくつかいただきました。

そこで第5回の今回は、離人感・現実感消失に有効とされている治療法にはどのようなものがあるのか、自分で対処するにはどのような方法が有効かを見ていきたいと思います。

そもそも離人感・現実感消失とは?という方はこちらからどうぞ!⬇️

心理療法

残念ながら、離人感・現実感消失に対する明確な治療法は確立されていません。一般的に、症状の改善のためには、心理療法薬物療法生活習慣の改善などの多面的なアプローチが必要であるとされています1

そんな中でも、不安や抑うつなどの深刻な併存症状が無い場合には心理療法が治療の中心となることが多く2、それらによって症状の改善が見られた例がいくつか報告されています。今回は複数の症例報告や研究をもとに、それぞれの療法の特徴と効果について見ていきましょう。

認知行動療法(CBT; Cognitive Behavioural Therapy)

認知行動療法は、思考パターンや行動パターンの変化を促すことで、心理的な問題や精神疾患にアプローチする心理療法です。

うつ病や不安障害、物質使用障害、夫婦間の問題、摂食障害など幅広い疾患や問題に対して効果が示されていることもあり3、他の心理療法に比べ、新規の患者に対する最初の選択として用いられる傾向があるようです4

離人感・現実感消失では、明確に効果が見られたケースと、そうでないケースが混在して報告されています。

ここでは認知行動療法が効果的に働いた症例5を見てみましょう。

  • 患者のプロフィール
    25歳の男性。気分障害(うつ病など)や精神病(統合失調症など)、てんかん、脳損傷などの病歴は無く、薬物の使用歴も無かった。家族や自身の過去にも特筆すべき問題は無かった。
  • 症状
    現実感が失われ夢のような状態。自分や周囲が変わったように感じる。身体が空っぽで感情が無く、周囲から切り離されたように感じ、家族を疎遠に感じることもあった。こうした症状は週5~6回、6年ほど続いていた。
    これにより焦燥感や苦痛を感じていたため、離人感・現実感消失症と診断された。
  • 介入
    マインドフルネスを基盤とした認知行動療法(MCBT)を行った。具体的には、ボディスキャン、マインドフルネス、ガイドに従って呼吸に集中する、呼吸をしながら周囲の現実を検討する、思考を受容し周囲に適用する、環境から自分の身体を切り離す練習をするなど。
    同時にSSRI(パロキセチン)も処方された。
  • 結果
    3か月間で離人感・現実感消失の症状は消え去り、離人感を測る尺度のスコアも65%減少した。結果として注意力や全体的な気分が改善された。6か月後にもこの改善は維持されていた。

認知行動療法にマインドフルネス(=今ここに注意を向ける)を組み合わせて使用しているのが特徴的ですね。また、離人感や現実感消失の症状が、トラウマや他の精神疾患由来でないことも注目すべきポイントかもしれません。

ディープ・ブレイン・リオリエンティング(DBR; Deep Brain Reorienting)

上記の症例では認知行動療法による介入がスムーズに症状の改善へとつながりましたが、複雑なトラウマやその他の精神疾患が背後にあるケースでは、メタ認知機能の改善のみが促され、反対に離人感や社会的なひきこもりが持続的に悪化してしまうこともあるようです6

今までいくつかの記事で見てきたように、トラウマは身体感覚の処理に大きな影響を与えますが、この処理に関連する部分は脳の奥深く(脳幹レベル)に存在するため、対話療法のみでは到達することが難しく、結果として離人感や自己調整能力の長期的な改善に十分な効果を発揮できない可能性が指摘されています7

その脳の深部にアプローチすることを目的とした療法が、ディープ・ブレイン・リオリエンティングDBR)です。

トラウマ刺激が想起されたり提示されたりすると、後頭部や額、目の周囲などの筋肉に定位緊張が生じ、その後にショック反応(肩の筋肉のこわばり、後頭部のわずかな回転、目の奥の圧迫感など)が起こります。DBRでは、こうしたショック反応の感覚に注意を向け、グラウンディング筋緊張の解放などのテクニックも使いながら、それらが自然に解消されるよう促します。こうしてショックが解除されると、恐怖や怒り、悲しみ、恥といった基本的な感情や情緒的な痛みが自然と出現し処理が行われるのです8

感情や思考が意識的に認識される前に身体の反応を捉えることで9、対話療法のみではアプローチしづらいトラウマ関連症状の改善を図ることができるというわけですね。

それでは、このDBRの介入が有効に働いた症例10を見てみましょう。

  • 患者のプロフィール
    複雑性トラウマを抱える男性。子供のころから両親の情緒的ニーズに応えるため恥や罪悪感を引き起こすような状況に置かれることが多く、父親は彼に言葉の暴力をふるい、母親は家庭内の問題の原因が彼にあるかのように感じさせるなど、罪悪感を抱かせるような接し方をしていた。
    10年前に受診したのが最初で、当時は社会的交流の回避や不安、身体化症状の悪化を訴え、パニック発作を伴う不安障害の診断を受けた。その後6か月の治療を経て、回避性パーソナリティ障害複雑性PTSDの診断も下された。初診から4年後には、主診断が離人症へと変更された。
    10年間の治療の中で、抗うつ薬、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬物を3回にわたって服用したが、長期的な効果は得られなかった。また、不安障害に対しては認知療法、パーソナリティ障害に対しては対人メタ認知療法、複雑性PTSDに対してはEMDRによる段階的介入をそれぞれ受けてきたが、長期的な離人感の減少や自己調整能力の改善にはつながらず、むしろ離人感や社会的なひきこもりが持続的に増加した。
  • 症状
    鏡を見ても自分だという感じがせず、喋り声を聞いても自分が話しているように感じられない。身体を抜け出して外から自分を見ているように感じる。周囲の存在が無いように感じられ、頭のない身体だけがあるように感じる。
  • 介入
    DBRを用いたセッションを週1回、18か月間行った。患者の内的な葛藤によりDBRの実践が難しかった場合には、DBRを用いるうえで重要な、治療上の信頼関係の強化に焦点を置いて進めた。
  • 結果
    離人感のスコアはDBR開始から6ヶ月後に急激に減少し、解離症状のスコアも18ヶ月後に減少を見せた。身体的な症状に対処する能力だけでなく、苦痛な感情を自己調整する能力も高まり、生活の質に大きな改善が見られた。一人で外出することができるようになり、時には他の人と会って会話をしたり、離人感を感じることなく交流したりすることができるようになった。

この症例のように、言葉を用いた深刻な虐待は、解離症状の出現ととりわけ強く関連していることがわかっています11

離人感・現実感消失が、複雑性トラウマに関連した複雑な病態の一つとして出現している場合に、身体的アプローチが有効に働いた症例でした。

ダンス・ムーブメント療法(DMT;Dance Movement Therapy)

DBRと同じく身体的な感覚に注目した療法として、ダンス・ムーブメント療法DMT)があります。

運動が精神的な健康に良い影響を与えることは広く知られていますが、中でもダンスは数日から数週間で行動や脳機能を変化させることがわかっていて、自己感覚への気づきを向上させることが確認されています12。特に離人感や現実感消失は身体感覚(内受容感覚)への気づきの低下や喪失と関連している可能性があり13、こうした状態を改善するうえでダンスが効果的に働く場合があるようです。

ここでは個別の症例ではなく、ダンスが離人感・現実感消失に与える効果を実験的に確認した研究14を見ていきたいと思います。この研究では、参加者を離人感・現実感消失の有無から健常グループ(n=29)と離人感・現実感消失グループ(n=31)に分け、次の2つのタスクを2週間実践してもらいました。

BA(Body Awareness)タスク

  • 身体への明確な注意を直接向けるためのタスク。
  • ウォームアップ(5分)
    リラックスし、今ここに意識を向ける。
  • メインの動作(15分)
    イメージを用いて身体に注意を向けるダンス。ストレスボールなどの道具を身体の表面に沿って動かし、その後そのボールが身体の中を移動する様子を想像する。ボールの大きさ、重さ、スピードなどを変えながら動かすことで、それに伴う身体感覚に注意を向ける。最後にはその身体感覚に基づいて自由なダンスを行う。
  • タスク中に流れる音楽にはリラクシングミュージックを使用した。

DE(Dance Exercise)タスク

  • 身体感覚をさりげなく(暗示的に)際立たせるためのタスク。
  • ウォームアップ(5分)
    明るい音楽に合わせて身体をほぐす。
  • メインの動作(10分)
    簡単なダンスの振り付けを覚えて踊る。あらかじめ決められたダンスステップを音楽に合わせて真似する。

結果として、離人感・現実感消失のグループでは、両方のタスクにおいて、全体的な症状の重症度と、身体に関する異常体験のスコアの両方が有意に減少しました。参加者がつけた日々の記録によると、各セッション後すぐに症状の改善が見られることも多く、特にDE課題ではその効果が顕著でした。

さらに内受容感覚を測定する尺度と解離症状との関係性を探ってみると、

  • BAタスク身体への特定の注意の向け方
  • DEタスク身体の中にある安心感や信頼感

それぞれ促し、どちらも内受容感覚に影響は与えているものの、その異なる側面にアプローチしていることがわかりました。

実際に著者たちは、もちろん個人差は大きいものの、

  • BAタスクのような明確に身体に意識を向ける課題は、解離症状があってすでに身体感覚に過剰に注意が向いている人にとっては、逆に難しいか、効果が低い可能性がある一方で、
  • DEタスクのような身体への意識を直接求めない課題は、動きや身体の使用を通じて自然に感覚を高められるという点から実施しやすく、より効果的である可能性があるのではないか

と考察しています。

DEタスクのように、シンプルな動きを連続して行ったり、振付の正確な記憶・再現に集中したりすることは、身体の内側の感覚や離人感から意識をそらしつつ身体感覚を高めることに繋がるため、結果として症状を軽減する効果があるのではないかということですね。実際、悲しい映画を観たあとに関係ない絵を描くことで注意をそらすと、ネガティブな感情が和らげられたと報告する別の研究もあるようです。

実際の臨床場面では、内受容感覚がどのように障害されているかに応じてBAタスク的な介入とDEタスク的な介入を使い分けることで、個々人の解離症状へより効果的にアプローチできるようになるかもしれません。

今回の実験は各参加者の自宅でリモートにより行われ、タスクの遂行にあたって特別なダンス経験も必要としませんでした。金銭的・時間的に負担の大きな従来の心理療法に比べてアクセスしやすく、治療計画や日常生活に取り入れやすいという点で、DMTのさらなる実用に注目が集まります。

自分で改善できる方法はある?

さて、ここまで離人感・現実感消失の治療で用いられる心理療法の一部を見てきました。もちろんこうした専門家の治療につながることができれば一番なのですが、さまざまな理由からそう簡単にはいかない場合も多いですよね。

そこで、ここからは個人でできそうな対処法をいくつかリストアップしてみたいと思います。信頼性の高いサイト(ページ下部の参考サイト欄にリンクを載せています)や、カウンセラーさんから個人的に教えてもらった方法、今回の記事の前半で紹介した知見などをまとめてみました。「💬」は私個人の当事者としての意見です。皆さんが実践している方法や効果を感じられた方法なども、もしよければ教えてください。

グラウンディング

DBRでも登場した、身体の感覚や周囲の環境を感じることで現在とのつながりを感じるテクニック。

  • 氷や保冷剤を握る
  • 触り心地が良いものを触る
  • アロマなど匂いが強いものを嗅ぐ
  • 周りを確認して自分がここにいることを確認する
  • 椅子に座っていることを感じる
マインドフルネス

MCBTでも登場した、自分の内的な状態や周囲の状況に気づく実践。

  • 呼吸への集中
  • ボディスキャン
  • 瞑想
  • ヨガ

💬はじめて実践する場合には、音声ガイドに従うと取り組みやすいと思います。Insight Timerなど専用のアプリ(気分の記録や目標設定などもできる)をインストールしたり、YouTubeの動画を参考にしたりする方法がおすすめです。

注意をそらす

DMTのDEタスクのように、不快な解離症状や身体感覚から注意をそらす方法。

  • 簡単なダンスを踊る
  • 関係のない絵を描く
  • 塗り絵や刺繍など単純な動作を続ける

💬自分の内的な感覚に注意を向けるとフラッシュバックなどが起きてしまう場合には、こちらの注意をそらす方法がより安全で効果的なように感じます。

おわりに

今回は、離人感・現実感消失に有効な治療法や自分でできる対策について見ていきました。

単体の疾患としてだけではなく、トラウマや脳損傷、脳機能の低下などさまざまな要因により起こる症状のため、治療法や対策にも幅が見られたのが印象的に感じました。

その幅の広さや個人差の大きさから捉えどころのない印象が強かった離人感・現実感消失ですが、この5回の特集により、だいぶ理解が深まったように感じます。皆さんの参考にもなっていれば幸いです。アンケートにご協力いただいた方々、離人感や現実感消失についてSNSで発信をしてくださった方々、本当にありがとうございました。


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<2025/6/5追記>

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本記事の参考文献・サイト

  1. Wilkhoo, H. S., et al. (2024) p.7 ↩︎
  2. Wilkhoo, H. S., et al. (2024) p.7 ↩︎
  3. What is Cognitive Behavioral Therapy? (2025/5/9閲覧) ↩︎
  4. Wilkhoo, H. S., et al. (2024) p.7 ↩︎
  5. Mishra, S., et al. (2022) ↩︎
  6. Frau, C., & Corrigan, F. M. (2024) p.15 ↩︎
  7. Frau, C., & Corrigan, F. M. (2024) p.15 ↩︎
  8. Frau, C., & Corrigan, F. M. (2024) p.16 ↩︎
  9. Frau, C., & Corrigan, F. M. (2024) p.15 ↩︎
  10. Frau, C., & Corrigan, F. M. (2024) ↩︎
  11. Frau, C., & Corrigan, F. M. (2024) p.12 ↩︎
  12. Millman, L. S. M., et al. (2023) p.1 ↩︎
  13. Millman, L. S. M., et al. (2023) p.2 ↩︎
  14. Millman, L. S. M., et al. (2023) ↩︎

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