解離傾向はどのように生まれる?愛着(アタッチメント)スタイルと解離の関係性

解離傾向はどのように生まれる?愛着(アタッチメント)スタイルと解離の関係性

みなさんこんにちは!4月から5月の前半まで、解離症状の一つである離人感・現実感消失に焦点を当ててきました。中でも第2回では構造的解離理論、第4回では二次障害、第5回では有効な治療法や対処法についてぞれぞれ紹介し、その中で幼少期の逆境体験など複雑性トラウマを伴う症例の複雑さ・困難さが改めて浮き彫りになったのではないかと思います。

複雑性トラウマが与えるこうした深刻な影響は、細かく分解していくと愛着の問題やそれに関連して生じる慢性的な解離傾向と繋がっている可能性があります。

そこで今週からは、約3回にわたって愛着(アタッチメント)に焦点を当て、それぞれ特定の論文を紹介しながら、次のようなトピックを扱っていきたいと思います。

第1回の今回は、そもそも愛着とは何か、慢性的な解離傾向はどのようにして生じるのかについて見ていきましょう。

そもそも解離とは?という方はこちらからどうぞ!⬇️

トラウマと解離の発生

解離現象の発生の仕組みとして、これまで凍り付き反応防衛カスケードモデルを紹介してきました。

凍り付き反応

防衛カスケードモデル

こうした反応はいずれも防衛反応の一種で、トラウマ的な状況において能動的に戦ったり逃げたりすることが難しい場合に、受動的に身を守る術として生じるものです4

しかし、このように一時的に生じる解離(=状態解離)に対して、トラウマ的な場面においてだけでなくその後の人生においても解離反応を使いやすくなる「特性解離」という傾向が生じる場合もあります5

そしてこの特性解離が強いと、それが治療の妨げ不適応の原因となる6だけでなく、NSSI(非自殺性自傷)や自殺傾向の高さにも大きな影響を与える7ことがわかっています(詳しくはこちらの記事で紹介しています)。

状態解離と特性解離

特性解離が生じる原因として、心理的トラウマ、特に重度で慢性的な児童期の虐待・ネグレクトなどのストレスが深く関連していることが複数の研究で示唆されていますが8、同時に

  • 解離症状を示す全ての人が幼少期のトラウマを報告するわけではない
  • トラウマを経験した人のうち、解離症状を発症するのはごく一部である

こともわかっています9

それでは、もし凍り付き反応や防衛カスケードモデルのように、トラウマ的な状況における防衛反応のみが解離の発生の仕組みだとすると、この事実は一体どのように解釈すれば良いのでしょうか?

愛着理論に根差した解離モデル

もちろん、解離傾向の高さには遺伝的・神経生物学的・認知的素因や環境要因など様々な要因が複合的にかかわっています10

しかし、これまでの視点からだけでは一件矛盾するように感じられる、「解離症状を示す全ての人が幼少期のトラウマを報告するわけではない」「トラウマを経験した人のうち、解離症状を発症するのはごく一部である」という先ほどの事実をうまく説明するには、凍り付き反応防衛カスケードモデルのような自律神経による防衛反応としての解離モデルだけでなく、愛着理論に根差した解離モデル11に注目してみることが有効かもしれません。

「隠れたトラウマ」

愛着とは、乳児が親などの養育者と築く情緒的な絆のことです12安全感を確立するための第一歩として発達し、通常、養育者の側にいるときに落ち着いた様子を見せることで表現されます13

しかし、乳児に対する養育者の態度が混乱を生むようなものである場合、こうした健全な愛着形成がなされない可能性があります。例えば、養育者の接し方が

  • 怖がらせるような態度(Frightening)
    うなり声をあげる、遊びの中で怒りや敵意を示す表情をするなど、乳児に対して攻撃的な態度。
  • 怖がっているような態度(Frightened)
    養育者自身が恐怖や無力感を示すような態度。

という一見矛盾した二つの態度により構成されている場合、養育者は乳児にとって「慰めの存在であると同時に恐怖と混乱の原因でもある」という二重性が生じることになります14

こうした養育者の態度の本質は「乱れた情緒的コミュニケーション」として概念的にまとめられており、具体的には次のような行動を含みます15

  • 撤退
    例)(子どもが苦しいときに)距離を取る
  • 情緒的なエラー
    例)優しい声なのに伝える内容は否定的など、解釈のための手がかりが混在している
  • 役割が混乱した応答
    例)養育者が子どもに対して逆に安心感を求める
  • 一貫性の無い反応
    例)突然感情が変わる
  • その他の重要なコミュニケーションの失敗

これらに共通する特徴は、養育者が子どもの情緒体験をうまく整理・支援できていないということです16

乳児は、自分自身でストレスを調整する能力が未熟な状態で生まれてくるため、本来であれば養育者による

  • 声のトーン
  • 接触
  • アイコンタクト
  • 注意

などのインプットを通してストレスに対する調整を行い、徐々に自己調整力を内在化していきます17

しかし、「怖がらせる(Frightening)と同時に怖がっている(Frightened)」ような養育者の振る舞い乱れた情緒的コミュニケーションが、特に生後一年間慢性的かつ広範囲に存在すると、たとえそれらが明らかな虐待やネグレクトとして報告されるようなものでなくても、乳児にストレスの調整不全を引き起こし、「隠れたトラウマ(hidden traumas)」として働くことがあるのです18

愛着理論に根差した解離モデルにおける解離の定義

こうした隠れたトラウマ」によって形成された愛着スタイルが解離傾向の要因になると主張するのが、愛着理論に根差した解離モデルです。

愛着理論に根差した解離モデルは複数の研究者たちによっていくつか提唱されていますが、それらにおける解離とは、自律神経系による防衛反応というよりは、むしろ「組織化され調整された愛着体験の欠如によって、他者と共にある自己(self-with-others)のモデルが断片化されること」だと定義されていて、これは以前の記事で紹介した内的作業モデルの概念に対応しています19

内的作業モデル

つまり、先ほど挙げた

  • 怖がらせると同時に怖がっているような養育者の振る舞い
  • 養育者が恐怖の源でありながら助けてくれる人でもあるような二重性のある状況
  • 乱れた情緒的コミュニケーション

などの混乱した養育を繰り返し体験すると、子どもはそれらを多重的で矛盾した「他者と共にある自己(self-with-others)」のモデルとして記憶するようになり、結果として内的体験に一貫性を持つことができず自分自身に対する感覚や他者に対する期待がバラバラになってしまう。そして、これが無秩序型愛着(disorganized attachment)の形成を促し、慢性的な解離傾向、つまり特性解離へと発展していくというわけですね20

無秩序型愛着

この「隠れたトラウマ」が形成する無秩序型愛着は、他の愛着スタイルと比較して一体どのような愛着スタイルなのでしょうか?

愛着理論では、養育者との再会時に子どもがどのような愛着行動を示すかによって、愛着のタイプを4つのグループに分類しています21

  • 安定型(secure)
  • 不安定回避型(insecure-avoidant)
  • 不安定両価型(insecure-ambivalent)
  • 無秩序型(disorganized)

安定型はもちろん、不安定回避型・不安定両価型の子どもたちも最適とは言えないものの、愛着対象との一定の距離を維持するための比較的組織的で一貫性のある愛着行動を示す22一方で、茫然とした表情を見せたり、感情状態を急激に変化させたり、養育者の前で急に動きを止めて固まったりと、矛盾や混乱に満ちた行動を示すのが無秩序型の子どもたちです23

これは、まさに「組織化され調整された愛着体験の欠如によって、他者と共にある自己のモデルが断片化」された状態であり、注意や意識、行動をうまく統合できなくなった結果だと解釈できます。

こうした内的作業モデルが維持されると、最終的にはこちらの記事で紹介した構造的解離理論のように、異なる自我状態が(特に愛着システムが活性化されたときに)感情・認知・行動を不連続的に支配するようになり、最も極端な状態としてはDID(解離性同一性障害)へと発展していくことが指摘されています24

構造的解離理論

おわりに

今回は、慢性的な解離傾向(特性解離)がどのように形成されるのかを、愛着との関係性から探ってみました。

「愛着理論に根差した解離モデル」は決して「自律神経による防衛反応としての解離モデル」と対立するものではなく、連続性の中で捉えられるものであると主張されていますが25、今回紹介した2種類の異なる視点が解離に対する理解をより深めることに繋がっていたら嬉しいです。

次回は愛着とボディイメージについて扱う予定です。


当ブログでは、トラウマ・インフォームド(Trauma informed)な社会の実現を目標に、

  • 信用できるソースをもとにした、国内・国外の最新研究に関する情報
  • 病気の基礎となる生物学的・心理学的メカニズム
  • 当事者が感じる症状の具体例
  • 日々の生活で実践できる、当事者向けライフハック

などを随時発信しています!

もっと気軽に、サクッと情報をチェックしたい方は、ぜひインスタやXも覗いてみてくださいね!フォローやいいねもしていただけると大変励みになります🫶


<2025/6/5追記>

また、この度マシュマロを設置しました!
(下の画像をクリックでリンク先に飛びます)

これまでPTSDや解離、愛着などを主なテーマとして扱ってきていますが、トラウマに関して

🔹もっと詳しく知りたいこと
🔹もっと知られてほしいこと

などがありましたら、ぜひこちらに匿名でお聞かせ頂けると嬉しいです!今後の記事や投稿の中で扱わせていただくかもしれません🙇

⚠️注意事項
※記事や投稿内で、頂いたメッセージを引用させていただく可能性があります。
※頂いたマシュマロそのものへの返信は基本的に控えさせていただく予定です。
※内容や状況によっては、長い間お待たせしてしまったり、扱えなかったりする場合があります。


ここまで読んでくださりありがとうございました!また次回の記事でお会いしましょう!😊

本記事の参考文献・サイト

  1. Guérin-Marion, C., Sezlik, S., & Bureau, J. F. (2020). ↩︎
  2. Bonev, N., & Matanova, V. (2021). ↩︎
  3. Eichenberg, C., Schneider, R., & Rumpl, H. (2024). ↩︎
  4. Kozlowska, K., et al. (2015) p.267 ↩︎
  5. Krause-Utz, A., et al. (2017) p.2 ↩︎
  6. Krause-Utz, A., et al. (2017) p.2 ↩︎
  7. Boyer, S. M., et al. (2022) p.83 ↩︎
  8. Krause-Utz, A., et al. (2017) p.2 ↩︎
  9. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.2 ↩︎
  10. Krause-Utz, A., et al. (2017) p.2 ↩︎
  11. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.3 ↩︎
  12. attachment – APA Dictionary of Psychology (2025/5/16閲覧) ↩︎
  13. attachment – APA Dictionary of Psychology (2025/5/16閲覧) ↩︎
  14. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.2 ↩︎
  15. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.2 ↩︎
  16. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.2 ↩︎
  17. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.2 ↩︎
  18. Guérin-Marion, C., et al. (2020) pp.2-3 ↩︎
  19. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.3 ↩︎
  20. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.3 ↩︎
  21. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.3 ↩︎
  22. Introduction to children’s attachment – Children’s Attachment – NCBI Bookshelf (2025/5/16閲覧) ↩︎
  23. Guérin-Marion, C., et al. (2020) pp.3-4 ↩︎
  24. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.3 ↩︎
  25. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.4 ↩︎

Comments

No comments yet. Why don’t you start the discussion?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です