みなさんこんにちは!前々回から愛着(アタッチメント)に焦点を当て、関連するトピックを見ています。
第1回では愛着と慢性的な解離傾向、第2回では愛着とボディイメージの関係性について紹介しました。第3回の今回は、愛着とSNS依存の関係性について、こちらの論文とDMM(動的成熟モデル)を中心に紹介していきたいと思います。
前回の記事はこちらからどうぞ!⬇️
目次
SNSの現状と問題
もはや生活に欠かすことのできないインターネットやSNS。SNS依存について考えるにあたり、まずはインターネットやSNS使用の世界的な現状1を確認してみましょう。
数字で見るインターネット・SNSの現状
- インターネット利用者数(2023年時点)
…51億8000万人 - SNSの利用者数(2023年時点)
…48億人 - オンラインで過ごす時間
…一日あたり平均6時間43分 - SNSに費やす時間
…一日あたり平均2時間25分 - SNSのアカウント数
…一人あたり平均8.9個 - 14歳から24歳の若者がスマホを開く回数
…毎日平均214回
どうですか?想像よりもかなり大きな数字が並んでいるように感じた人もいるかもしれません。
SNS依存の問題とは別にして、そもそも現代社会に生きる多くの人にとって、SNSやインターネットがかなり身近な存在であることがよく分かる数字ですね。
SNS使用により生じる問題
このように多くの人にとって身近なSNS使用ですが、精神的健康に影響を与える可能性も複数指摘されているのが現状です。
例えば、SNS使用中に燃え尽き感や疲労感、いらだちなどの否定的な感情が現れる現象はソーシャルメディア疲れ(Social media fatigue)と呼ばれて問題視されています2。
また、SNS上の「いいね」の数が自己価値の代理指標のようになったり、加工された理想的な画像に頻繁にさらされることで自分の外見を変えたいと思うようになったりなど、自尊心への影響も無視できません3。
特にSNS文化は、第2回で扱ったボディイメージの認知的要素(”○○な見た目じゃないと美しくない”)を極端にし、感情的・行動的要素(”もう少しここがこうだったらなあ…”/”ダイエットしよう”)を煽る構造の構築に加担していると言っても過言ではないでしょう。

さらに、一日に2時間以上SNSを利用する若者では、不安や抑うつ、睡眠障害の割合が高い傾向にあることもわかっていて、SNS使用とその他の精神症状との関連性が示唆されています4。
SNS依存とは?
こうしたSNSによる精神的健康への影響のうちの一つが、今回扱うSNS依存です。そもそもSNS依存とはどのように定義されるものなのでしょうか?
現在、ICDやDSMなどの診断基準の枠組みには正式に採用されていませんが、行動嗜癖の一種として捉える考え方が一般的です5。
行動嗜癖とは、過剰で報酬的な行動により引き起こされる心理的な依存症状のことを指します6。
行動嗜癖(behavioral addiction)とは、精神作用物質ではなく、ある特定の行動や一連の行動プロセスを依存対象とする依存症である。病的ギャンブリングやインターネット・ゲーム障害、窃盗癖、買い物、暴力、自傷、性的逸脱行動、過食・嘔吐、放火、携帯電話など、実に多岐にわたる様式がある。
行動嗜癖 – 脳科学辞典
つまり、SNS依存とは、SNSを対象とした不適応な心理的依存症状だと定義することができるでしょう7。
具体的には
- 顕著性(salience)
ほとんどの時間ソーシャルメディアのことを心配したり考えたりしている。 - 気分調整(mood modification)
ソーシャルメディアに関わることで気分が改善する。 - 耐性(tolerance)
満足するために必要な時間や関わりがどんどん増えていく。 - 離脱症状(withdrawal)
ソーシャルメディアから離れたり、それを使えなくなったりすると、落ち着かなくなったりネガティブな感情が生じたりする。 - 葛藤(conflict)
ソーシャルメディアへの関与が原因で、個人の生活に支障が出たり、人間関係などに問題が生じたりする。 - 再発(relapse)
一定期間控えたりやめたりしても、また以前の使用パターンに戻ってしまう。
といった基準を含むBSMAS(Bergen-Social Media Addiction Scale)などの尺度8が、SNS依存の評価に際して広く使われています9。
つまり、ただ長時間使用することがイコールSNS依存なのではなく、ずっとそのことについて考えてしまったり、離れると苦痛を感じたり、それ以外の生活に影響が出たりすることなどが、SNS依存の問題であり特徴であるというわけですね。
実際、だいぶ幅が見られるものの、5%、13%、25%の3つの数値が現状の平均有病率の基準値として特定されています。一番大きな割合である25%の有病率で考えてみても、SNS使用者の4人に3人はSNS依存を示さないということです。
SNS依存と愛着スタイル
それでは多くの人がSNSを使用するなか、こうした行動嗜癖としてのSNS依存が起こる場合と起こらない場合があるのは一体どうしてなのでしょうか。
SNS依存を予測する因子はいくつか特定されていて、例えば神経症傾向やFOMO(取り残されることへの恐れ)といった性格特性はその代表例です10。
加えて、一般的に行動嗜癖や依存行動は、愛着の問題を補う手段として生じる場合があることが知られています。SNS依存も例外ではなく、多くの行動嗜癖は否定的感情の回避を目的として行われますが、一方で不安定(insecure)な愛着の代わりを求める社会的行動として行われる場合もあるのです11。
前回までの記事で主に扱ってきた愛着スタイルは、無秩序型(disorganized)と呼ばれる、混乱した養育によって多重的で矛盾した自己のモデルを構築するタイプの愛着スタイルでした。しかし、今回SNS依存との強い関連が見られるのは不安定型(insecure)、なかでも不安定両価型(insecure-ambivalent)と呼ばれるタイプの愛着スタイルであることがわかっています12。
不安定型愛着
それでは、この不安定型愛着とはいったいどのような特徴を持つ愛着スタイルなのでしょうか?
養育者が他人と関わったり、子どもを一人にしたりしたときの反応や行動に基づくと、不安定型愛着は次の2種類に分類されます13。
- 不安定回避型(insecure-avoidant)
養育者と離れても苦痛を示さず、再会しても接触を求めようとしない。 - 不安定両価型(insecure-ambivalent)
一人にされると強い苦痛を感じ、再会時には接触を求める行動と拒む行動を交互に示す。

SNS依存に関連があるのは、このうち不安定両価型の愛着スタイルです14。SNS依存を有しやすく、同時に精神的な健康上の問題も高いレベルで存在することがわかっています15。
一方、不安定回避型の愛着スタイルは、SNS依存の形成に有意な影響を及ぼすという結果は出ませんでした16。
こうしたSNSに対する両者のスタンスの違いには、二次的愛着戦略の存在が関わっている可能性があります。
二次的愛着戦略とDMM(動的成熟モデル)
二次的愛着戦略(secondary attachment strategies)とは、養育者からの共感的な応答が得られない場合に、保護・安心・親密さ・予測可能性のニーズなどを満たすため発達させる戦略のことで17、具体的には次の2つが含まれます18。
- 不活性化戦略(deactivating strategies)
自身の感情や内的体験を抑圧して無視する。 - 過活性化戦略(hyperactivating strategies)
恐怖・怒り・悲しみ・絶望感などの感情を誇張する。

これを、危険な状況を予測し対処するための精神的戦略が愛着のパターンに反映されるとして、より明確にカテゴリー化したのが動的成熟モデル(DMM)です19。
動的成熟モデルでは、次のような各戦略が想定されています20。
- A型戦略(=不活性化戦略に相当)
自身の苦痛が一貫して無視されたり拒絶されたりした経験から、養育者への要求を最小限に抑える戦略。
どちらかというと認知的で、他者の視点や欲求、感情に注意を向け、自分のニーズや内的体験、感情を無視し、対立を避けようとする。 - B型戦略
認知的情報と情動的情報の両方を受容的に取り入れながら、自分と他者の相反するニーズに関する内的対話を継続的に行う戦略。共感的な養育者との安全な関係の中で発達する。 - C型戦略(=過活性化戦略に相当)
養育者からの共感的応答が予測できなかったことから、怒り・恐怖・慰めを求めようとする戦略。
どちらかというと情動的で、自分の視点に固執し、感情を過活性化させ、他者を排除してでも自分を正当化することに集中する。
これらの戦略は環境が不安定で危険であるほど極端かつ多様になっていくとされていて、一個人が一つのカテゴリーの戦略のみを使うわけではありません。しかし、愛着パターンはこうした戦略が反映されたものであるとも考えることができるというわけです21。
不安定両価型愛着とSNS依存
SNS依存に話を戻すと、不安定両価型の愛着スタイルを持つ人は、注目を求める欲求と同時に他者から受け入れられないことに対する不安も抱えており、SNS使用において過活性化戦略を使う場合が多いと考えられます22。
そうしたなかで、インターネットの匿名性は新たな自己像を創り出すことに役立ち、結果として他者から受け入れられないことへの不安や恐怖を和らげる手助けとなっている可能性があるのです23。
こうした人々はどちらかというとInstagramやPinterestなどの画像中心型SNSをより積極的に利用する傾向が高く24、イメージ重視のプラットフォームを通じて新たな自己像を創り出す一方で、
- 他者と比較しやすい
- 加工などで理想化された画像を見たとき、自分の身体に対する不満を感じやすい
- インフルエンサーとのかかわりの中でネガティブな自己評価をしやすい
こともわかっています25。
したがって、不安定両価型愛着を持つ人にとって、SNSは愛着から生じるニーズを補う手段として一見有効である一方、同時に受け入れられなさへの不安を悪化させる恐れもある26という二面的な性質を持ったものであると考えることができるでしょう。
こうした二つの性質が循環を促進し、結果として適応的な関わりではなく行動嗜癖の側面を持った依存的な関わりをしやすくなってしまうのが、不安定両価型におけるSNS依存であると言うことができるかもしれません。
おわりに
今回は、SNS依存と愛着の関係性や、不安定型愛着と二次的愛着戦略/動的成熟モデルについて詳しく見てきました。
身近なSNS使用のスタイルにまで愛着が関係しているとは、その影響力の甚大さを改めて実感した人も多かったのではないでしょうか。
愛着スタイルと様々な事象との関連性はとても興味深いものが多いので、また近いうちに扱えたらと思います。
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<2025/6/5追記>
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本記事の参考文献・サイト
- Collins, M., & Grant, J. E. (2025). Social media addiction and borderline personality disorder: a survey study. Frontiers in psychiatry, 15, 1459827.
- Eichenberg, C., Schneider, R., & Rumpl, H. (2024). Social media addiction: associations with attachment style, mental distress, and personality. BMC psychiatry, 24(1), 278.
- Gomez, R., Zarate, D., Brown, T., Hein, K., & Stavropoulos, V. (2024). The Bergen–Social Media Addiction Scale (BSMAS): longitudinal measurement invariance across a two-year interval. Clinical Psychologist, 28(2), 185–194.
- Guérin-Marion, C., Sezlik, S., & Bureau, J. F. (2020). Developmental and attachment-based perspectives on dissociation: beyond the effects of maltreatment. European Journal of Psychotraumatology, 11(1).
- 行動嗜癖 – 脳科学辞典 (2025/5/29閲覧)
- Neuroticism is a fundamental domain of personality with enormous public health implications – PMC (2025/5/29閲覧)
- Hyperactivating Strategy – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/29閲覧)
- World | Data (2025/5/30閲覧)
- Ambivalent Attachment – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/30閲覧)
- Avoidant Attachment – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/30閲覧)
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.2 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.2 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.2 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.2 ↩︎
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- Eichenberg, C., et al. (2024) p.2 ↩︎
- Gomez, R., et al. (2024) p.186 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.2 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.2 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.3 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.9 ↩︎
- Ambivalent Attachment – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/30閲覧) ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.9 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.11 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.11 ↩︎
- Hyperactivating Strategy – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/29閲覧) ↩︎
- Hyperactivating Strategy – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/29閲覧) ↩︎
- Hyperactivating Strategy – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/29閲覧) ↩︎
- Hyperactivating Strategy – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/29閲覧) ↩︎
- Hyperactivating Strategy – an overview | ScienceDirect Topics (2025/5/29閲覧) ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.11 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.11 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.11 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.11 ↩︎
- Eichenberg, C., et al. (2024) p.11 ↩︎

