トラウマや危険予測・対処の観点から、大人における愛着を考えてみる―動的成熟モデル―

トラウマや危険予測・対処の観点から、大人における愛着を考えてみる―動的成熟モデル―

みなさんこんにちは!いつもブログやSNSを見てくださってありがとうございます!だいぶ久しぶりの更新となってしまい申し訳ないです🙇今月からはまた定期的に投稿していきますので、ぜひ楽しみに待っていてくださると嬉しいです🙏

さて、2月にブログを始め、これまで次のようなテーマを扱ってきました(各項目クリックで展開)。

今回は、5月の愛着のテーマを延長し、前回の記事で軽く触れた動的成熟モデル(DMM)をより詳しく紹介していきます。

昨今、特に恋愛や人間関係などのトピックにおいて、SNS上で「愛着スタイル」や「不安型/回避型」「回避依存」などの言葉を頻繁に目にする方も多いのではないでしょうか。これは、程度の差はあれど多くの人が、その後の対人スタイルにおける生育歴の影響を強く実感していることの現れであるのかもしれません。

今回は、そんな愛着スタイルを「危険をどう予測し対処するかの戦略」としてトラウマの文脈で捉え、成人にも適用可能なモデルとして発展させたDMMの詳細を見ていきましょう。

前回の記事はこちらからどうぞ!⬇️

動的成熟モデル(DMM)とは

養育者が他人と関わったり、子どもを一人にしたりしたときの乳児の反応や行動に基づき、

  • 安定型(タイプB)
  • 不安定回避型(タイプA)
  • 不安定両価型(タイプC)
  • 無秩序型

といったいくつかの愛着スタイルを観察・提唱したものがAinsworthらによる愛着モデルでした。

一方、Crittendenにより提唱された愛着と適応の動的成熟モデル(Dynamic-Maturational Model of attachment and adaptation; DMM)は、危険な状況予測対処するための心理的な戦略が愛着パターンとして現れることを想定したモデルで1、対象を乳児に限定せず、成人期までの発達プロセスを幅広くカバーしていています2

発達プロセスとしての愛着

そもそも愛着とは、乳児が親や養育者などの愛着対象と築く情緒的な絆のことで、安全感を確立するための第一歩として発達していくものでした3

これをもう少し掘り下げると、愛着対象の役割はすなわち

  • 子ども自身の自己防衛能力を超える脅威から子どもを守る
  • 脅威やその可能性によって苦痛を感じた子どもを安心させる

ことだと言えます4

つまり、「愛着対象がどれだけ自分を守り安心させてくれるか」という情報に基づき、どのように子どもが自分自身を守るか(=自己防衛戦略5)を反映したものが、各愛着スタイルであると考えることができるわけです。

例えば、無秩序型の愛着スタイルを持つ子どもでは、

  • 怖がらせると同時に怖がっているような養育者の振る舞い
  • 養育者が恐怖の源でありながら助けてくれる人でもあるような二重性のある状況
  • 乱れた情緒的コミュニケーション

などの組織化されていない混乱した養育6を繰り返し経験した結果、茫然とした表情を見せたり、感情状態を急激に変化させたり、養育者の前で急に動きを止めて固まったりと、矛盾や混乱に満ちた行動を示します7

これは、愛着対象が自分をどのように守り安心させてくれるか(=愛着対象の役割)の予想が過度に困難であることから、自己防衛戦略を組織的に発達させることができず、結果として養育者の不在という危機的状況において、矛盾や混乱に満ちた行動が表出されている状態であると捉えることができるでしょう。

無秩序型の愛着について、詳しくはこちらの記事をどうぞ!⬇️

養育者の反応

無秩序型の愛着スタイルは、養育者の関わり/子どもの戦略のいずれも組織化されていないという点で特殊な例と言えますが、他の3つの愛着スタイル(安定型・回避型・両価型)では、愛着対象(=養育者、親)の反応、すなわち養育者から子どもへの関わり方の中に、ある程度一貫した特徴が見られます。

CrittendenやAinsworthによると、Ainsworthらが提唱した3つの愛着スタイルは、次のような養育者の態度に対応するとされています8

  • 安定型タイプBの養育者
    乳児からのシグナルに対して、(他の2タイプの養育者よりも)敏感かつ適切に反応する9
  • 不安定回避型タイプAの養育者
    干渉的かつ拒絶的、あるいは引きこもりがち無反応で、子どもにとって危険な存在となる場合がある1011
  • 不安定両価型タイプCの養育者
    思いやりはあるが予測不可能で、子どもをあざむくような行動をとる場合がある12

情報処理のショートカット

こうした各態度は、特に危険な場面で子どもがどのようにその情報を処理するかという傾向を、少しずつ形成していきます。

例えば、子どもの様子に敏感で、苦痛や脅威を感じた場合すぐに保護や安心感を与えるような安定型(タイプB)の養育者のもとでは、子どもは安全な環境にいながら危険に対する認識や対処を少しずつ学んでいくことができます13

一方、養育者自身が脅威の源であったり、養育者からの安心が提供されなかったりする場合(タイプA・タイプC)には、子どもは情報処理のショートカットや反射的な反応を用いることで、そのような状況への対処を試みることがあるのです14

情報処理のショートカットとは、情報を省略・変形させることで複雑な状況を単純にすることです15。少し具体例を見てみましょう。

例えば、「夜子どもが一人で外にいると、赤い服を着た人から怖い目に遭わされた」とします。このような状況では、

  • 安定型(タイプB)の子どもは、「夜に一人で外にいた」ことを危険の要素として保持し、その人物が「赤い服を着ていた」ことは将来の危険とは無関係だと判断して切り捨てる。
  • 回避型(タイプA)の子どもは、出来事全体を省略して、被害を無かったこととしたり、抑圧したりする。
  • 両価型(タイプC)の子どもは、「赤い服の人物」を危険のサインとして過剰に重視し、自分が夜に一人で外にいたという要素は省略する。

といった情報処理が行われる傾向にあります16

養育者からの保護や安心感を得ながら育ったタイプBの子どもでは将来の危険に向けた情報の取捨選択が適切に行われているのに対し、そうではないタイプAとタイプCの子どもでは情報が過度に省略・変形され、状況が単純化されています(=情報処理のショートカット)。

こうした情報処理は、将来の危険に備えるには不適切ですが、家庭内が脅威に満ちたものであった場合には適応的である場合があります。つまり、危険を認識してそれに対処する能力がまだ十分に備わっておらず、加えて保護や安心感も得られないような状況では、「どのような条件で危険が起きるか」を判断する手間を省くことで瞬時に危険を避けたり、状況や構造を単純化することで「大人が自分を守ってくれなかった」という辛い事実を認識しないようにしたりすることが有効である場合があるのです17

別の視点から考えると、情報のショートカットはトラウマの結果であるとも言うことができるでしょう。Crittendenはトラウマを「効果的な情報処理ができない心理的経験、すなわち感情的または身体的に脅威となる状況の経験」であると定義しています18。つまり、効果的な情報処理ができないような環境そのものやそこで遭遇する脅威や危険は、他の子どもにとってはそうではなくても、特にタイプAやタイプCの子どもにとって、情報をショートカットすることでしか対応せざるを得ない時点で、トラウマに発展する可能性が高い経験であると考えられます。

トラウマ記憶のしくみに関してはこちらの記事もどうぞ!⬇️

DMMと行動戦略

それぞれの情報処理の仕方やそれに伴う防衛行動は、危険をどう予測し対処するかの行動戦略として次第に発展していき、成人期には多様な形で現れるようになります19

それらの行動戦略を次元的に整理し、まとめたもの動的成熟モデル(DMM)です。従来の愛着モデルと異なるのは、個人が各戦略に分類されるのではなく、同じ人でも状況によって複数の戦略カテゴリーを使う場合があるという点です。

例えば従来の愛着モデルでは、特定の状況における乳児の反応によって各愛着タイプが判断されました。しかしDMMでは、一個人が状況に応じて、AタイプとCタイプの戦略のどちらをも使い分ける場合が想定されています。

DMMでは、

  • 安定型(タイプB)的な状況で培われる戦略を「バランスの取れた安全な戦略(Balanced/Secure strategies)」
  • 不安定回避型(タイプA)的な状況で培われる戦略を「拒絶的な戦略(dismissing strategies; A型戦略)」
  • 不安定両価型(タイプC)的な状況で培われる戦略を「注目喚起的な戦略(preoccupying strategies; C型戦略)」

と呼んで整理しています。

Ainsworthらをはじめとした従来の愛着モデルとの関係性をまとめると、以下の図のようになります。

ここからは、タイプA(回避型・拒絶的な戦略)と、タイプC(両価型・注目喚起的な戦略)のそれぞれに目を通しながら、各戦略の具体的な内容と、それらの成り立ちを見ていきましょう。

タイプAはどんな戦略?

タイプAは、従来の愛着モデルでは不安定回避型と呼ばれ、養育者と離れても苦痛を示さず、再会しても接触を求めようとしない乳児の類型でした。その特徴が成人における行動戦略に発展すると、「拒絶的な戦略(dismissing strategies; A型戦略)」として、DMMにおける一連のパターンに整理されます。

このタイプにおける情報処理の基本的な特徴は、

  • 否定的情報抑圧する
  • 肯定的情報強調する

ことです20

その結果、実際の行動としては

  • 規則他者の要求に従う
  • 予測可能に振る舞う
  • もし否定的な情報を認めざるを得ない場合には、他者ではなく自分を責める

傾向にあります21

タイプAはA1からA8までの8つに分類されていて、数字が大きくなるほど、情報をより変化させる戦略であることを示しています22。さらにその中でも、

  • 奇数番号の戦略(A1, A3, A5, A7)は愛着対象を理想化する
  • 偶数番号の戦略(A2, A4, A6, A8)は自分を否定する

ことが軸となっています23

A1とA2はAinsworthによってもともと提唱されていたもので、A3からA8はCrittendenによってDMM以降導入され始めたものです24

タイプAの成り立ち

このようなタイプAの戦略は、具体的にどのような過程を経て形成されていくのでしょうか。

タイプAの養育者は、「干渉的かつ拒絶的、あるいは引きこもりがち無反応で、子どもにとって危険な存在となる場合がある」傾向を持っていました1011。彼らがタイプBやタイプCの養育者と大きく異なる点は、乳児との身体的接触に強い嫌悪感を示す点です27。感情的な表現は抑えられているものの、その際に拒絶怒りが多く観察される傾向にあります28

こうした態度は、タイプA戦略の中心となる「接近と回避の葛藤」の形成を促します。すなわち、このタイプの養育者を持つ子どもは、密接な身体的接触を求めると、痛みを伴う拒絶に遭うことから、こうした葛藤的な状況における不安や怒りを軽減しつつ、養育者に対して耐えられる範囲での距離感を保てるように、回避行動を発展させていくのです29

しかし、乳児期から幼児期に移行すると、こうした単純な回避行動では乗り越えられない場面も多く出てくるようになります。

ここからはタイプAの養育者をさらに3つのタイプ(①干渉的な養育者、②引きこもりがち/無反応な養育者、③子どもにとって危険な養育者)に分け、それぞれの環境で子どもがどのように戦略を発展させていくかを見ていきましょう。

①干渉的な養育者

拒絶的でありながらも、同時に干渉的な養育者のもとでは、あからさまに回避する行動は「無礼である」と解釈されるようになり、彼らの怒りの反応を引き起こす原因となってしまいます30。そのため、子どもは次第に行動的な回避から心理的抑制(psychological inhibition)、つまり自分自身の感情を抑え込むことへと戦略を変化させていきます30

結果として、

  • 養育者の方を見たり、一緒に会話したりはするものの、親密さを求めるシグナルは出さない
  • 無礼だと捉えられない範囲で、冷静かつ形式的なやりとりに留める

傾向を持つようになります30

先ほどの表では、特に

  • A1(回避型)
    「冷静かつビジネス的な印象」「問題を避ける傾向」
  • A2(社交型)
    「表面的には社交的」「親密な関係は避ける」
  • A6(自立型)
    「感情を引き起こす関係性を避ける」

にこうした傾向が見てとれますね。

②引きこもりがち/無反応な養育者

一方、養育者が引きこもりがちで無反応な場合、直接的に援助を求めても当然うまくいきませんが、かといって養育者の注目を集めない限り安全や安心感を得ることもできません。そのため、子どもは心理的抑制に加え、偽のポジティブな感情を示すようになります33

子どもは「みんな幸せだよ」「悪いことは何も起こらないよ」「あなたが私に注意を向けても大丈夫だよ」と養育者を安心させることで心理的に引き付けようとしますが、結果として、本来子どもを安心させるべきである養育者と役割が逆転した33不健全な関係性が形成されてしまいます。

先ほどの表では、特に

  • A3(ケア型)
    「落ち込んだ親を慰めたり親をケアしたり(する)」
  • A7(妄想的理想化型)
    「ポジティブな情報を作り出し」「感じの良い印象を与え(る)」

にこうした傾向が見てとれるでしょう。

③子どもにとって危険な養育者

そして、子どもにとって養育者自身が危険や脅威となる環境では、ただ養育者を回避するよりも、警戒心を保ちながら彼らの行動を注意深く観察し、養育者が何を望んでいるのかを予測する必要が出てくるようになります。つまり、そのような環境では敏感に察して従い、養育者を喜ばせることで危険を避けようとするようになるのです35

そのため、次のような傾向が見られるようになります35

  • 養育者を完璧に喜ばせようとしたり、養育者の怒りのきっかけを全て特定しようとしたりする過程で、偶然起こった出来事同士を因果関係にあると誤解することが多くなる。
    非合理的な強迫的行動(物を特定の順序や配置に整える、掃除や手洗いを繰り返す、物を溜め込むなど37に繋がる場合もある
  • 過剰に勉強に励むなど、通常求められるレベルのさらに上を達成しようとする

先ほどの表では、特に次の戦略でこの特徴が顕著に見られます。

  • A4(従順型)
    「脅迫的で怒りっぽい親の望むように行動し、危険を回避しようとする」「過度に警戒心が強く、他者の望みを素早く察知しようとする」「常に不安や不穏さを抱えており、身体症状として表れることもある」

以上がタイプAの大まかな成り立ちでした。

ここまで見てきたように、タイプAの子どもたちは、自分の行動を変えることで養育者からの脅威を軽減できると学ぶことから、次第に養育者の行動の責任を自身が引き受ける傾向を持つようになります。そのため、養育者が怒りや拒絶的な態度を示すと、それらが自分の責任ではなくても、自分自身に対して(shame)の感情を抱きやすくなってしまうのです35

このの感情は、「自分自身の身体的特徴や性格、対人特性、行動などが他者から否定的に評価され、拒絶・排除されたり、攻撃や侮辱を受けたりする可能性がある」という信念と関連しており、回避傾向引きこもりをさらに促進する要因となり得ます39

タイプCはどんな戦略?

タイプCは、従来の愛着モデルでは不安定両価型と呼ばれ、一人にされると強い苦痛を感じ、再会時には接触を求める行動と拒む行動を交互に示す乳児の類型でした。その特徴が成人における行動戦略に発展すると、「注目喚起的な戦略(preoccupying strategies; C型戦略)」として、DMMにおける一連のパターンに整理されます。

このタイプにおける情報処理の基本的な特徴は、

  • 否定的感情誇張する
  • 他者の欠点や限界を、注目を集めながら強調する

ことです40

その結果、実際の行動としては

  • 予測不可能に振る舞う
  • 否定的な状況については、自分ではなく他者を責める

傾向にあります40

タイプCもタイプAと同様にC1からC8までの8つに分類されていて、数字が大きくなるほど、情報をより変化させる戦略であることを示しています22。しかし奇数番号と偶数番号の戦略の特徴はタイプAとは異なり、タイプCの

  • 奇数番号(C1, C3, C5, C7)は怒りに満ちた無敵さを誇示する戦略
  • 偶数番号(C2, C4, C6, C8)は傷つきやすさ・恐れを示したうえで慰めを求める戦略

として整理されています23

タイプAと同様、C1とC2はAinsworthによってもともと提唱されていたもので、C3からC8はDMM以降導入され始めました24

タイプCの成り立ち

このようなタイプCの戦略は、具体的にどのような過程を経て形成されていくのでしょうか。

タイプCの養育者は、「思いやりはあるが予測不可能で、子どもをあざむくような行動をとる場合がある」傾向を持っていました45。これは具体的にどのような態度を指すのでしょう。

一般的に、養育者の反応を予測できない場合、乳児は不安や怒りを感じます。しかしタイプCの養育者のもとでは、そうして発生した怒りを伝えても、それに対する反応さえもまた予測できない状況安心させてくれることもあれば逆に怒られることもあり、時には状況が何も変わらないこともある)が続くことになります46。このような環境では、「予測に基づいて自分の行動を整理する」プロセスが妨げられるため、乳児は認知をうまく働かせられなくなる可能性があります47

結果として乳児は、養育者(愛着対象)が「どのように、なぜ利用可能になるのか」という時間的に順序づけられた知識を切り離すようになっていき48、むしろ自身の欲求が満たされるかどうかは「怒り」「不安」「恐怖」と関連すると学習していくのです49

これらの感情は、幼児期になると、一貫性のない養育者からある程度まとまった反応を引き出す手段として、はにかみ行動(coy behaviour)とともに使われるようになります。はにかみ行動とは恥ずかしそうに照れ臭く振る舞うことで、具体的には控えめに笑ったり一瞬だけ目を合わせたりする行動を指します。こうした行動は動物間でも見られ、歯をむき出しにしない・アイコンタクトを取り続けないことで攻撃性が無いことを示し、支配的な個体からの保護や世話を引き出す効果を持っています50

ここからは次のような状況51を想定して、具体的にこれらの感情がどのように用いられ、戦略が形作られていくのかを見ていきましょう。

2歳の子どもが養育者に「そばにいてほしい」というサインを送っている。しかし、養育者は他のことに気を取られていて反応しない。そこで子どもは自分の要求をさらに強める。最終的には怒りながら叫び、養育者に対しておもちゃを投げつける。

①養育者が穏やかに反応した場合

激しく怒り、おもちゃを投げつけたとしても穏やかな反応をもらえた場合、子どもは「感情のサインを強調すれば反応してもらえる」と学習します。その結果、次からはより早い段階で激しい感情を見せるようになります52

これは奇数番号の戦略、すなわち「怒りに満ちた無敵さを誇示する戦略」へと発展していきます。

②養育者が怒って反応した場合

一方、養育者から怒りの反応が戻ってきた場合、子どもは

  • 感情を強調することによって養育者の注意を引けた
  • しかし怒られた(=罰された)

という2つの出来事を経験することとなります53

このようなときには、養育者の怒りを和らげるために一度「はにかみ行動」を見せ、その後安全が確保されると、改めて自分自身の怒りを表現するというパターンを学んでいきます54

これは偶数番号の戦略、すなわち「傷つきやすさ・恐れを示したうえで慰めを求める戦略」に発展していきます。

このように、

  • 怒り
  • 不安恐怖養護への欲求

感情を分裂(split)させ、それらを交互に素早く強調しながら

  • 相手を脅す行動
  • はにかみ行動/相手の怒りをなだめる行動

を通じて注目を集めていくことがタイプC戦略の基盤となっています55

改めて各戦略の表を見てみると、怒りを強調し、相手を脅したり無敵さを誇示したりする戦略は、

  • C1(脅迫型)
    「他者の行動を操作するために、誇張された/変化しやすい怒りを示す」「わめきやかんしゃくなどの脅しを行う」
  • C3(攻撃型)
    「好ましくない結果が自分の責任によるものではないことを、怒りや攻撃的な行動を誇張しながら示そうとする」「他者の従順さを引き出すような怒りの行動をとる」
  • C7(脅威型)
    「怒りを一般化し、危険の兆候を過剰に関連づける」「脅威とみなされる人に対しては、それが例え非論理的であっても攻撃する用意がある」

の記述に顕著に見られ、反対に不安や恐怖、養護への欲求を強調しながら相手の怒りをなだめる戦略としては、

  • C2(鎮静型)
    「慰めを求める欲求を誇張して表現する」「脅威を和らげるために媚びるような振る舞いをする」
  • C4(偽りの無力型)
    「慰めや恐れの感情を過度に表現(する)」「無力に見えるような振る舞いをして、他者からの救助を引き出す」
  • C6(救済執着型)
    「自己を脆弱/無垢で被害を受けた存在のように見せ(る)」

に顕著に見られるのがわかるでしょう。

こうした戦略を用いる子どもの視点からは、自分の欲求が満たされるときには、養育者の反応(成人では相手の行動が自分の感情を変えたように見えるため、「自分の気持ちは他者のせいで生まれた」と感じられやすくなります。そのため、しばしば自分の問題を他者のせいにする傾向も見られます56

DMMと実際の疾患・治療

さて、ここまでDMMの詳細について見てきましたが、実際の疾患や治療とはどのような関連があるのでしょうか。

従来の愛着モデルですでに提唱されていたA1・A2C1・C2タイプB(バランスの取れた安全な戦略)の各戦略(=Ainsworth戦略)と比べると、DMM戦略A3からA8C3からC8)を用いる人々はリスクの高い環境に関連しているとされています57

例えば、こちらの研究では

  • 精神疾患を持つ人々のグループ(n=44)では、1名を除きほぼすべての人DMM戦略のいずれかを使用していた
  • 疾患の無い人々のグループ(n=22)では、4分の3の人Ainsworth戦略を使用していた

という結果が見られました58精神疾患を持つ人々に共通していた特徴は

  • バランスの取れていない戦略を用いている
  • うつのレベルが高い

ことでしたが、中でも慢性的なPTSDを持つ人々は特に、

  • 幼少期からの継続的なトラウマが多い
  • 複雑なトラウマが多い
  • 拒絶的(タイプA的)/注目喚起的(タイプC的)なトラウマが多い

ことがわかりました59

つまり、認知や情動が発達しきらない状態で危険な状況に遭遇してしまい、大人からの保護や安心感も得られないまま「情報のショートカット」などを用いてなんとか切り抜けてきた幼少期の経験は、成人における慢性的なPTSD発症に繋がる恐れがあり、言い換えれば、成人における慢性PTSDの治療において、幼少期の問題に取り組むことが効果的である可能性があるということを示唆しています60

さらに、慢性PTSDやトラウマ関連疾患を治療するうえで、患者の行動のレパートリーにタイプBの戦略を加えることも重要だと言えるでしょう。これにより対立的な関係を避け親密な関係を改善し、さらなる危険に遭遇してしまう機会を減らせる可能性があります61

慢性的なPTSDについてはこちらの記事もどうぞ!⬇️

ところで、慢性的なPTSDという枠組みの中で似た診断を持つ患者同士であっても、特にタイプA戦略を用いる患者では

  • 幼少期に繰り返し深刻な被害を受けていた
  • 愛情深く守ってくれる愛着対象(養育者など)を全く思い出せないと報告する者も多かった
  • タイプCも併用する患者群に比べ、タイプAのみを使用する患者群ではうつ状態がひどかった

ことが報告されました62

したがって、どのタイプのDMM戦略を用いる傾向があるかによって、効果的な治療自体も変わってくる可能性があると言えます。

例えばタイプCも同時に用いる患者では、

  • 感情を最小化する
  • 状況に注意を向ける
  • 無関係なシグナルを切り離す

ような治療法が効果的だと考えられますが、タイプAの戦略のみを用いる患者ではそのような治療は逆に機能不全を強化する可能性が高く63、むしろ

  • 感情の状態を詳しく調べる

ような治療法が効果的である可能性があります64

実際に別の研究では、不安障害回避性パーソナリティ障害複雑性PTSD離人症などの診断を受けた男性が、認知療法(思考パターンの変化を促す療法)やEMDRを受けた結果、むしろ離人感や社会的なひきこもりなどの悪化を経験した例が挙げられています65

DMMの観点から考えてみると、この男性のように生育家庭の機能不全言葉の暴力をはじめとした複雑なトラウマが背後にあり、恥や罪悪感が症状の背後に横たわるケース(=つまりタイプAの戦略を多く用いるケース)では、感情ではなく思考に注意を向け、変化を促す治療法は効果的でなかったと分析できるかもしれません。

この症例について、詳しくはこちらの記事からどうぞ!⬇️

おわりに

今回は、愛着の発達プロセス、DMMの概要、各戦略タイプ、実際の疾患や治療との関わりについて詳しく見てきました。

トラウマが生育環境のなかでどのように形作られていくのか、そしてそれらがその後の人生でどのような影響を及ぼすのかを、今までの記事に比べてより具体的に見ていくことができたと思います。

ボリュームのある記事になってしまいましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました🙏


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本記事の参考文献・サイト

  1. Hyperactivating Strategy – an overview | ScienceDirect Topics (2025/6/19閲覧) ↩︎
  2. DMM Model – Family Relations Institute (2025/6/19閲覧) ↩︎
  3. attachment – APA Dictionary of Psychology (2025/6/20閲覧) ↩︎
  4. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.3 ↩︎
  5. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.3 ↩︎
  6. Guérin-Marion, C., et al. (2020) p.2 ↩︎
  7. Guérin-Marion, C., et al. (2020) pp.3-4 ↩︎
  8. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.3 ↩︎
  9. Ainsworth, M. S. (1979), p.933 ↩︎
  10. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.3 ↩︎
  11. Crittenden, P. M. (1995), p.9(PDF) ↩︎
  12. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.3 ↩︎
  13. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.2 ↩︎
  14. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.2 ↩︎
  15. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.2 ↩︎
  16. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.3 ↩︎
  17. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.2 ↩︎
  18. Landa, S. & Duschinsky, R. (2013), p.334 ↩︎
  19. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.3 ↩︎
  20. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.6 ↩︎
  21. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.6 ↩︎
  22. Landa, S. & Duschinsky, R. (2013), pp.334-335 ↩︎
  23. Landa, S. & Duschinsky, R. (2013), p.335 ↩︎
  24. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.5 ↩︎
  25. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.3 ↩︎
  26. Crittenden, P. M. (1995), p.9(PDF) ↩︎
  27. Ainsworth, M. S. (1979), p.933 ↩︎
  28. Ainsworth, M. S. (1979), p.933 ↩︎
  29. Ainsworth, M. S. (1979), p.933 ↩︎
  30. Crittenden, P. M. (1995), p.9(PDF) ↩︎
  31. Crittenden, P. M. (1995), p.9(PDF) ↩︎
  32. Crittenden, P. M. (1995), p.9(PDF) ↩︎
  33. Crittenden, P. M. (1995), p.10(PDF) ↩︎
  34. Crittenden, P. M. (1995), p.10(PDF) ↩︎
  35. Crittenden, P. M. (1995), p.10(PDF) ↩︎
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  40. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.7 ↩︎
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  42. Landa, S. & Duschinsky, R. (2013), pp.334-335 ↩︎
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  46. Crittenden, P. M. (1995), p.5(PDF) ↩︎
  47. Crittenden, P. M. (1995), p.5(PDF) ↩︎
  48. Landa, S. & Duschinsky, R. (2013), p.330 ↩︎
  49. Crittenden, P. M. (1995), p.5(PDF) ↩︎
  50. Crittenden, P. M. (1995), pp.6-7(PDF) ↩︎
  51. Crittenden, P. M. (1995), p.7(PDF) ↩︎
  52. Crittenden, P. M. (1995), p.7(PDF) ↩︎
  53. Crittenden, P. M. (1995), p.7(PDF) ↩︎
  54. Crittenden, P. M. (1995), p.7(PDF) ↩︎
  55. Crittenden, P. M. (1995), p.8(PDF) ↩︎
  56. Crittenden, P. M. (1995), p.8(PDF) ↩︎
  57. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), pp.3-4 ↩︎
  58. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.10 ↩︎
  59. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.11 ↩︎
  60. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.11 ↩︎
  61. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.11 ↩︎
  62. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.11 ↩︎
  63. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.11 ↩︎
  64. Crittenden, P. M. & Heller, M. B. (2017), p.12 ↩︎
  65. Frau, C., & Corrigan, F. M. (2024) ↩︎

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